一緒にいれる時間で【拓夢】

俺は、凛の事を抱き締めていた。


「拓夢。私…」


「今までよく頑張ってきたね」


俺は、凛の頭を優しく撫でた。


「頑張ってない。何も頑張ってない」


「頑張ったんだよ。凛は、自分でも気づかないぐらい沢山頑張ってきたんだよ」


俺は、凛から離れた。


「凛、俺ね。今回、本気で龍次郎さんには敵わないって思ったんだよ!龍次郎さんは、凛を本当に愛してるよ。だけど、今の凛には届かないんだよな」


俺は、凛の涙を優しく拭って笑って見せた。

今の凛の心は、ザルみたいなんだと思う。いくら愛を注いでも流れていってるのがわかる。


「俺と過ごす時間でかわれるといいんだけどな」


俺は、凛の髪を優しく撫でる。


「無理だったら、ごめんね」


「謝る必要なんてないんだよ。凛は、わがままいっぱい言っておけばいいんだよ」


凛は、俺の言葉に泣いていた。


「部屋着貸してあげるから!持ってくるよ」


「服、あるの?」


「あるよ!まだ、全然引っ越し出来てないから…。ちょっと待ってて」


俺は、寝室のクローゼットから七分袖のシャツとズボンを取って持ってきた。


「これなら、しんどくないかな?部屋着に俺が使ってたやつなんだけど…」


「ありがとう」


そう言って、凛は何も考えないで着替えようとする。


「ちょ、ちょっと待って!リビングにいるから」


「どうして?」


「どうしてって、ほら、あれだよ。わかるだろ?」


「それでもいてよ」


俺は、凛に見つめられて「わかった」って言ってしまった。


「あっ、でも、こっちに向いてるから!着替えて」


俺は、扉を向いて立っていた。凛が服を着替えるのを待つ。


「拓夢、あのね」


「うん」


パサッって音がして、凛が着替えるのがわかる。


「今の私を作ったのは、最初の恋だったんだよね」


「そうだな」


俺も、凛の気持ちが痛い程わかる。


「何も持ってなくても愛してるって言ってもらえてたら違ったのかな?」


「それは、蓮見にって事?」


凛は、黙っていた。


「凛…」


振り返った俺の目に凛の姿がうつる。


「ごめん。まだ、着替えてなかったのに、ごめん」


「ううん。あのね」


凛は、そう言って服を着替えているようだった。


「うん」


「私、初めてを好きな人に捧げてたら、こんな人間じゃなかったのかもしれないね」


凛は、そう言って俺の手を握りしめてくる。


「それは、俺も同じだから…。わかるよ」


俺は、凛の方を見た。凛は、もう服をちゃんと着ていた。


「タイムマシーンがあるわけじゃないから、やり直す事なんて出来ないのはわかってる。ほら、時間は前にしか進まないでしょ?」


無理して笑う凛の頬に俺は、手を当てる。


「初めてをいい加減な気持ちで手放した自分を許せてないんだな」


俺には、凛の気持ちがわかる。


「そんな事ないよ」


凛は、そう言って笑った。一度ついた傷を拭う事は、容易くはない。それでも、今、乗り越えないと凛は未来永劫、同じ場所をループし続けるのがわかる。


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