月と星が交わる場所【凛】

今回は、凄く期待していた。だからこそ、落ち込みはいつもより大きかった。私は、拓夢にその事を話していた。体を捧げる事か、子供を産む事か…。そのどちらかがなければ、私は存在してはいけないと思っていた。

拓夢に必要に思われていない気がした。龍ちゃんにもいらないって言われた気がしていた。身体中に染み付いた考えがうまく抜けないのを感じる。


今、拓夢に抱かれたら私はきっと惨めになる。今の自分を許せなくて、大嫌いになる。それでも、私は絶望の拭い方をこれしか知らなかった。それに、必要だと言って欲しかった。こんな私でもいいって言って欲しかった。


消えたくて、辛くて、悲しくて…。どうにもならない感情。私は、拓夢に助けてと言っていた。


「凛、大丈夫だよ」


拓夢に抱き締められる。優しく背中を擦ってくれる。

いつからだろう。

自分の価値をないもののように扱ってきたのは…。


「今日の月は、満月なんだって!一緒に見よう」


「さっきも言ってた」


拓夢は、私から離れて私の両頬をムニュッっとつねった。私は、子供みたいに口を尖らせた。


「満月見よう。話したい事がある」


そう言って、拓夢は私に笑った。私は、両頬にある手を両手で握りしめる。


「わかった」


私の言葉に拓夢は手を離した。私が脱いだコートを手に取り私にかけてくれる。


「行こう」


拓夢は、手を繋いでベランダに連れて行ってくれる。スリッパは、一つしかないから、拓夢は私に履くように進めてきたけど私は首を横に振ってそのまま出る。ストッキング越しに、ベランダの冷たさを感じる。いろんな熱が静まっていく気がする。


拓夢と一緒にベランダに並ぶ。


「凛、あそこ見て」


拓夢が指差した場所には、月と星が見える。


「あれがどうしたの?」


私の言葉に拓夢は、突然跪く。


「何?」


「凛が苦しくて悲しくて辛くなったら、月と星を見つけてよ。そして、いつでも俺に連絡して」


「どういう意味?」


拓夢は、私の手を握りしめる。


「月と星が交わる場所へ、一緒にいこう!」


「交わる場所?」


私は、拓夢の手を握りしめる。


「そう。それは、俺達が話す事だったり、こうして会う事」


「言ってる意味がわからないよ」


私の言葉に、拓夢は立ち上がった。


「だから、あそこ見て」


そう言われて、私はまた満月を見つめる。


「月と星が交わる場所で、待ってるから」


「待ってるって何?」


「凛が消えたいなら、俺を呼んでって意味だよ」


そう言って拓夢は、私を抱き締めてくる。


「何かよくわからない」


私の言葉に拓夢は、「ごめん、ごめん」と笑ってる。


「拓夢は、月と星が交わる場所に住んでるの?」


「まさか!」


拓夢は、そう言って私から離れる。


「でもさ、月と星が交わる場所を指で線を引いていった先に俺はいるかも知れないね」


そう言って、拓夢は笑ってくれる。

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