必要だからだよ【拓夢】

「凛、もう体の繋がりや子供を産む価値観に囚われないで欲しいんだ。凛にその能力がなくなったら、凛を必要じゃないって考えるのはやめよう」


「それがなかったら、私に価値なんてないんでしょ?そうでしょ?」


泣きながら言う凛の涙を俺は拭った。


「そんな風に言わないでくれよ。凛は、生きてるだけで価値があるんだよ。俺は、凛が生きてるだけで嬉しいよ!幸せだよ!」


凛は、小さく震えてる。女性としての価値観を植え付けたのは、世間や凛を取り巻く大人達だったんだと思う。そして、求めてもらえない女は価値がないように言ったのは美沙か?それとも、別の誰かか?


「拓夢、消えたい。こんなに苦しくて、こんなに辛いなら…。消えたい」


「凛、そんな事言わないでって言いたくなかったけど言うよ。そんな悲しい事言わないでよ。俺は、凛が生きてるだけで幸せなんだよ。凛、どうしたら、その痛みを取り除いてやれる?」


「わかってる、拓夢。今、抱かれたら惨めになるだけなの…私」


凛は、そう言って俺の頬に手を当てて涙を拭ってくれる。


「望むなら、俺は何だってするよ」


本当は、ここで関係を持つのは凛の為にはならない。わかってるけど、凛が望むなら何でもしてあげたかった。


「私とセックス出来なくても、愛してる?」


「愛してるよ」


「これから先、誰かと恋をしても私を愛してる?」


「愛してるよ」


そう言って、俺は頬にある凛の手に手をゆっくりと重ねて握りしめる。


「私の価値って何?」


今までと違って、凛は

俺の目を泣きながら見つめる。


「凛は、俺の人生を変えてくれた人だよ。ううん、俺だけじゃない。SNOWROSEを助けてくれた。智天使ケルビムを説得してくれた」


「それは、龍ちゃんだよ」


「そんな事ない。凛がいなくちゃ無理だったんだよ」


「それは、龍ちゃんだから…。私じゃないから…」


凛は、そう言って首を左右に振った。


「俺を救ってくれたのは、凛だよ!凛がいなきゃ、俺はバンドをもう一度やろうと思わなかった」


凛は、俺の言葉に俺を見つめながら、ゆっくり俺の手を自分の頬に当てる。


「凛は、俺がバンドを続けて行く為に必要なんだよ」


「拓夢」


「凛の価値は、セックスする事と子供を産む事だけじゃない」


俺は、そうハッキリ言って凛の頬を優しく撫でる。


「俺、凛がいるから頑張れるんだ。凛がいるから、幸せなんだ。一緒に新しい価値を見つけよう。俺、凛の為だったら何だってするから…。体を差し出さなきゃ愛されないとか、子供を産まなきゃ女じゃないとか…。そんな悲しい言葉を言わないでよ」


俺は、凛の顔を覗き込む。凛の目から、涙がたくさん流れ落ちてくる。


「拓夢、私の傷を拭って…。助けて、拓夢」


その言葉に俺は、凛を引き寄せて抱き締める。


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