いらないんでしょ?【拓夢】

「拓夢も龍ちゃんみたいに私をいらないっていうんでしょ?」


俺は、凛の言葉に驚いた顔をして見つめた。


「どうして、そうなるんだよ!凛」


「必要ないんでしょ?こんな体の人間だから、赤ちゃんが産めないから、私なんか必要ないんでしょ?」


凛は、そう言って震えながら泣いてる。


「凛、何言ってるんだよ!そんなわけないだろ?」


「じゃあ何で?何で…」


「そんな体だったら、必要ないって言ったのか?誰が言ったんだよ」


俺は、凛の肩を揺さぶった。凛は、首を横に振って泣いてる。


「美沙か?美沙に言われたのか?」


俺の言葉に凛は黙ってる。俺は、凛の隣に座って、凛の頬に手を当てる。凛は、目を反らそうとする。


「こっち見て、凛」


俺の言葉に凛は、俺を見つめてくれる。


「体の繋がりだけが、凛の絶望を癒してくれると思っていたけど…。そうじゃないね」


凛は、頬にある俺の手を握りしめてくる。


「必要じゃないって言わないで」


凛の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。俺は、親指でその涙を拭う。


「例えば病気でセックスが出来なくなったら凛は必要じゃなくなるのか?違うだろ?年をとって、セックスに興味がなくなったり、お互いの体をいたわるようになったら?凛が必要じゃなくなったって意味に凛は感じるの?」


俺の言葉に凛は何も言わずに泣いてるだけだった。


「それは、違うよ!凛。セックスをしなくなったって、龍次郎さんも俺も凛を愛してるよ」


必要な言葉を手探りで探しながら俺は話す。


「セックスをしなくなったら、子供が産めなかったら、凛は女性としての価値がないように思ってるんだよな!」


俺の言葉に凛は、黙って泣いてる。龍次郎さんが手紙に書いていた美沙に言われた何かは、凛の女性として生きていく何かを傷つけたんだと思う。そして、ずっと凛の中にくすぶっていた女性として生きていく意味や価値…。その考えに深く突き刺さった何か…。それがさらに深く刺さってしまったのが、妊娠出来ていなかった事だったんだと思う。


「女性として生きていく事が苦しいんだろ?辛いんだろ?悲しいんだろ?」


求められないと必要じゃないみたいに思うほどに凛は自分を深く傷つけているのがわかった。


「拓夢していいよ」


俺は、首を横に振った。


「何で、やっぱり私、何か…」


俺は、凛の唇に唇をそっと重ねる。していいのは、キスだけだ。これ以上は、進むべきじゃない。あの日のように、絶望を快感にすり替えるだけじゃ凛はもう救われないのがわかる。俺は、ゆっくりと唇を離した。


「拓夢……」


「キスはいっぱいしよう!でも、その先はしない」


「どうして?何で?私が妊娠出来ないから?」


「違う、違うよ」


俺は、凛を強く抱き締める。


「本当は、我慢できないぐらいだよ。でもね、凛…。もう、それを価値観にして生きて行って欲しくないんだ。一人の人間として、俺は凛には生きて行って欲しい」


「いらないって事でしょ?そんなの女で生きた意味ないじゃない。だから、拓夢も…」


「いるんだよ」


俺は、凛から離れて肩を掴んで、凛を覗き込んだ。


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