未来はいらない【凛】

「私、会いに行くよ。でも、これがきっと最後だと思う。最後にちゃんと話してくるよ。それでちゃんと…」


「その先は、しっー」


龍ちゃんは、私の唇に右手の人差し指を当ててくる。


「龍ちゃん…」


「この先の未来はいらないから…。そういう約束でいっぱい苦しんできただろ?俺達。だから、もしかしたらいるってそれぐらいでいいから。あっ、でも、俺が死ぬ時ぐらいは、一緒に居てくれたらいいかな?」


「又、死ぬ時の話するの?龍ちゃん、何か病気とか?」


私は、龍ちゃんの手を握りしめて話す。


「ないない。俺は、元気だよ!だけど、わかってるんだ。お母さんとお父さん見てたから…。誰かを思って生きてく辛さとか、叶わない願い背負って歩いてく悲しさとか…。そういうの俺わかってるから…。だから、凛にはそうなって欲しくない」


そう言って、龍ちゃんは私の頬を優しく撫でてくれる。龍ちゃんの気持ちを私は受け取った。


「わかった!龍ちゃん、ちゃんと拓夢との事終わらせてくるから…。龍ちゃんと過ごす為に…。龍ちゃんと過ごす未来の為に…。ちゃんとこの傷を終わらせてくるから」


龍ちゃんは、私の手を握りしめる。


「あの日もこうやって、始まったんだよな!星村さんと…。お互い消せない傷があったんだろ?」


私は、龍ちゃんに見つめられて、もう嘘をつけずに「そうだね」と言った。


「でも、同じ傷を抱えた人間は拭い合えないって言うから…。一緒にいると何か違ったのかな?」


私は、龍ちゃんの言葉に龍ちゃんの目を見つめる。


「それは、わかんないけど、私の中での一番はずっと龍ちゃんだよ!龍ちゃんしかいないよ。それは、変わらない。この先、どんな事がおきても…。どんな事になってもそれは変わらない」


龍ちゃんは、私の言葉に首を左右に振る。


「かわるかもしれないだろ?人間なんてわからないだろ?だから、さっきも言ったけど約束はいらないから…。帰って来れなくなったら、連絡してくれたらいい。後の事は、凛が決める事だから…。俺は、あの時みたいにここで凛を待ってるから」


そう言って、龍ちゃんは柔らかい笑顔を浮かべる。


「何で、そんなに優しいの?」


「優しい?それは、違うよ!だって俺は、星村さんとは違って凛が帰ってくる証拠みたいなのを持ってるんだ」


「それって、婚姻届って事?」


私は、龍ちゃんにそう言って尋ねた。


「まあ、それもあるね。余裕ぶっこいて大人にフリして本当は違うのかもしれないけど…。でも、俺は凛が戻ってきてくれるって信じてる。だから、もし、そうじゃないなら連絡して…。俺、待ってるから!だから、さよならぐらいポストにいれててよ。あっ!それと後のものは何でも持っていきなよ!俺は、この家があればそれだけで充分だから…。」


「うん。ありがとう。龍ちゃん」


龍ちゃんの言葉に私は、そう言うしか出来なかった。


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