楽になるか?【凛】

龍ちゃんは、新しいバスタオルを巻き付けて私をお姫様抱っこしてリビングのソファーに座らせた。


「ちょっと待ってて」


そう言って、龍ちゃんは暖房の温度をあげたり、ピッピッと床暖房のスイッチを押したり、キッチンに行ったり、寝室に行ったり、慌ただしく動いていた。


「はい、これ」


私は、龍ちゃんに毛布をかけられる。


「私が死んだら悲しい?」


その言葉に龍ちゃんは驚いた顔をしていた。


「何でそんな当たり前の事を聞くんだよ!」


珍しく龍ちゃんは、怒っていた。


「龍ちゃん!何で死なせてくれないのよ」


龍ちゃんに怒りをぶつけるなんて間違ってるのをわかっていながら言ってしまった。


「凛、何でそんな事言うんだよ」


龍ちゃんは、ボロボロ泣き出した。


「私がどれだけ赤ちゃんを望んでるかわかる?出来ないなら、死んだ方がまし」


龍ちゃんは、握り拳を作っていた。その手が震えてるのがわかる。龍ちゃんが怒ってるのを感じていた。


「龍ちゃんには、わかんないよ。女だったら、赤ちゃんが産みたいの!欲しいの!当たり前に染み付いた気持ちなの。わかる?わからないでしょ?だから、死なせてよ」


龍ちゃんは、私の言葉に何も言わずに立ち上がった。


キッチンに向かっていく。無言で何かを持ってきた。


「凛、殺してあげたら楽になるか?」


龍ちゃんは、泣きながら包丁を握りしめていた。


「龍ちゃん。殺して」


私は、毛布とバスタオルを床に落として立ち上がった。


「先に行ってて!俺も後から行くから」


「うん。いいよ」


この苦しみから、逃げれるなら…。


この痛みが、終わるなら…。


私は、もう消えてしまいたい。


それが、龍ちゃんに殺されて終わるなら構わなかった。


龍ちゃんは、私の近くに来た。


「見られてると刺せないよ」


「あっ、うん。ごめんね」


「本当にいいの?」


「いいよ!だけど、ちゃんと、殺ってね。目覚めた時に、絶望したくないから」


「わかってるよ!凛」


龍ちゃんは、優しい。


いつだって、私の事を考えてくれていた。


「最後に聞いていい?」


「何?」


「龍ちゃんは、不倫した私の事、本当はどう思ってた?」


龍ちゃんは、私の言葉にボロボロと泣いていた。


「こういう結末にならないなら、不倫でも何でもしていてくれてよかったよ。俺は、凛が生きていてさえくれれば何もいらなかった」


龍ちゃんは、そう言いながら、「うっ、うっ」と声を出して泣いていた。


「優しいね、龍ちゃん」


私は、ゆっくり目を閉じた。


「いいよ。龍ちゃん」


「わかった」


龍ちゃんが、やってくるのがわかる。


ドサッ…。


ソファーに倒れた。


やっとこれで、楽になれる。


やっと、これで、解放される。


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