あの日の答え合わせ【凛】

私は、トイレの収納棚からこいつを取り出していた。


「最後に使ったのいつだっけ?まだ、いけるかな?」


取り出した箱は、未開封だった。


「そっか、使わなかったんだ。結局…」


書かれてある年数は、まだいけていた。


「あー、怖いから!まだ先にしよう」


新品があるのがわかったから、私はそれを置いてトイレを出た。


とりあえず、家事をしよう!朝御飯のお皿を片付けたり、箱庭に洗濯を干したり、掃除機をかけたりした。


「そろそろ、しなきゃだよね」


時刻は、11時を回っていた。大人なんだから、覚悟を決めなきゃね!


私は、トイレに入った。そいつの使い方は、何度も何度もしたから知っている。


「はぁー」


大きな溜め息を吐いて、ペリペリと開封する。スティックを袋から開けて取り出した。わざと使い方を入念に読んでから、使用した。

キャップを閉じて、水平に置いた。トイレから出たくなるのを必死で我慢してただ待った。


長い…


一分ってこんなに長かったっけ?


まだかな…


まだかな…


私は、そいつを見つめた。


わかってた


答えなんて最初から…


しなくたって


わかってた


臼ぼんやりする視界


カタカタと揺れてるようにさえ感じる風景


「お風呂入ろう」


私は、重だるい体を引きずるようにお風呂場にいって栓をしてからスイッチを押した。


【お湯はりをします】

無機質な機械音がそう告げた。


ここって、家だったっけ?


大好きな家は、セピア色で…


視界は、どんどん滲んでいく


私は、必死でダイニングテーブルに歩いてスマホを取った。


龍ちゃんにメッセージを送る。


【答えが出ました。やっぱりそうでした。私は、ポンコツです】


メッセージを送信しながら、私は泣いていた。


【お風呂が沸きました】


その言葉に私は、お風呂場に行く。


ゴトンっ…


テーブルに置こうとしたスマホが床に落ちた。私は、それを拾う気力もない。


服を脱ぎ捨てて、バシャバシャと風呂桶でお湯をすくって体を流して、ちゃぷんと湯船に浸かった。


暖かい


お風呂の保温機能を停止した。


「消えたい」


私は、ポツリと呟いて浴室に体育座りしていた。


それからの事は、ほとんど記憶になかった。


「凛、凛、何してるんだよ」


龍ちゃんの声が遠くで響いてる。


「凛、こんな冷えきった湯船に入ってちゃ駄目だろ」


バシャン…


龍ちゃんは、服のまま湯船に手を入れて私を持ち上げた。


私は、ガタガタと震えていたようで脳内に歯がガチガチ言ってる音だけが響いてる。


「凛、ごめんな。すぐ帰れなくて」


龍ちゃんは、バスタオルをかけて私の体を拭いてくれる。


チラリと見えた龍ちゃんの時計で、時刻が五時半だとわかった。


走ったのかな?


急いだのかな?


龍ちゃんの体は、湯タンポみたいに暖かい。


「調子悪くなったら、すぐに病院に連れていくから」


龍ちゃんは、そう言って私の体を擦りながら拭き続けてくれる。


「龍ちゃん」


私の視界は、やっと龍ちゃんをとらえた。


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