帰宅【凛】
【本日の公演はこれを持ちまして…】アナウンスが流れ出して、みんな帰っていく。
「挨拶していく?」
龍ちゃんに、そう言われて私は首を横に振った。
「いいの?本当に?」
「もう、邪魔したくないから…」
そう言って、私は立ち上がった。会場にいた沢山のファンはいなくなっていた。
「帰ろう。龍ちゃん」
「うん」
まばらになった人を見つめて、私は龍ちゃんに言った。
私達は、会場を後にした。龍ちゃんと車に乗り込んで、カチッとシートベルトを同じタイミングでつけた。
「成功してよかったよ」
龍ちゃんは、エンジンをかけながら笑っていた。
「龍ちゃんが私の代わりに沢山話してくれたお陰だよ」
「俺は、何もしてないよ!決めたのは、
カチッカチッとウインカーを出しながら、車は発進した。
「星村さんも、
龍ちゃんは、そう言って前を見つめてる。
「そうだね。もう、私なんかが一緒にいちゃいけない場所に行ったんだよ」
「そんな事ないよ」
龍ちゃんは、そう言って笑ってくれる。赤信号で停まる度に、龍ちゃんは私を心配して何度も見てくれていた。家についた。
私達は、無言で車を降りた。龍ちゃんが玄関の鍵を開けてくれた。
私は、コートを脱いでコートかけにかける。
「凛、泣かないで」
龍ちゃんに抱き締められた。
「ごめんね」
「何人も愛せる世界にいたら、幸せだったのにな…」
「そんなの思ってない」
龍ちゃんは、私の頬に手を当てて優しく涙を拭ってくれる。
「凛が星村さんを大切に思ってるのちゃんと俺。わかってるから」
「龍ちゃん、ごめんね」
「いいんだって言っただろ?これは、俺達夫婦の問題で…。他の人に言われるのは違うから」
龍ちゃんは、私を強く抱き締めてくれる。私、あの日約束した答えを出す…。こんな風にモヤモヤしてるのは、あれのせいだってわかってるから…。私は、龍ちゃんの背中に腕を回して強く抱き締めていた。
◆
◆
◆
答えを出すと決めながら、あの日から二週間が経ってしまっていた。龍ちゃんは、変わらずに私に接してくれていて、相沢さん、はやとさん、
【デビューから、二週間。SNOWROSEの快進撃が止まらないですね】
珍しく龍ちゃんは、テレビをつけていた。
「凄いね!ほら、星村さん」
「本当だね」
今日は、龍ちゃんは休日出勤だと言っていた。いつもよりゆっくりな龍ちゃんはテレビを見ながら笑っていた。
「じゃあ、行くよ」
「何時に帰ってくる?」
「出来るだけ早く帰ってくる」
「わかった!行ってらっしゃい。気をつけてね」
「うん!行ってきます。凛も気をつけて」
玄関の扉が閉まったのを見つめてから、鍵をかけた。
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