帰宅【凛】

【本日の公演はこれを持ちまして…】アナウンスが流れ出して、みんな帰っていく。


「挨拶していく?」


龍ちゃんに、そう言われて私は首を横に振った。


「いいの?本当に?」


「もう、邪魔したくないから…」


そう言って、私は立ち上がった。会場にいた沢山のファンはいなくなっていた。


「帰ろう。龍ちゃん」


「うん」


まばらになった人を見つめて、私は龍ちゃんに言った。


私達は、会場を後にした。龍ちゃんと車に乗り込んで、カチッとシートベルトを同じタイミングでつけた。


「成功してよかったよ」


龍ちゃんは、エンジンをかけながら笑っていた。


「龍ちゃんが私の代わりに沢山話してくれたお陰だよ」


「俺は、何もしてないよ!決めたのは、智天使ケルビムの皆さんだから」


カチッカチッとウインカーを出しながら、車は発進した。


「星村さんも、舞台あそこに立ってると別人みたいだったね」


龍ちゃんは、そう言って前を見つめてる。


「そうだね。もう、私なんかが一緒にいちゃいけない場所に行ったんだよ」


「そんな事ないよ」


龍ちゃんは、そう言って笑ってくれる。赤信号で停まる度に、龍ちゃんは私を心配して何度も見てくれていた。家についた。

私達は、無言で車を降りた。龍ちゃんが玄関の鍵を開けてくれた。

私は、コートを脱いでコートかけにかける。


「凛、泣かないで」


龍ちゃんに抱き締められた。


「ごめんね」


「何人も愛せる世界にいたら、幸せだったのにな…」


「そんなの思ってない」


龍ちゃんは、私の頬に手を当てて優しく涙を拭ってくれる。


「凛が星村さんを大切に思ってるのちゃんと俺。わかってるから」


「龍ちゃん、ごめんね」


「いいんだって言っただろ?これは、俺達夫婦の問題で…。他の人に言われるのは違うから」


龍ちゃんは、私を強く抱き締めてくれる。私、あの日約束した答えを出す…。こんな風にモヤモヤしてるのは、あれのせいだってわかってるから…。私は、龍ちゃんの背中に腕を回して強く抱き締めていた。



答えを出すと決めながら、あの日から二週間が経ってしまっていた。龍ちゃんは、変わらずに私に接してくれていて、相沢さん、はやとさん、智天使ケルビムの人に話したけど…。それも気にせずにいつも通り過ごしてくれていた。


【デビューから、二週間。SNOWROSEの快進撃が止まらないですね】


珍しく龍ちゃんは、テレビをつけていた。


「凄いね!ほら、星村さん」


「本当だね」


今日は、龍ちゃんは休日出勤だと言っていた。いつもよりゆっくりな龍ちゃんはテレビを見ながら笑っていた。


「じゃあ、行くよ」


「何時に帰ってくる?」


「出来るだけ早く帰ってくる」


「わかった!行ってらっしゃい。気をつけてね」


「うん!行ってきます。凛も気をつけて」


玄関の扉が閉まったのを見つめてから、鍵をかけた。


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