拝啓、星村拓夢様…【拓夢】

手紙を広げると…。


拝啓 星村拓夢様。最初の一行はその言葉から始まっていた。


突然手紙を書いて持ってきてしまいました。星村さんは、こちらにはもういないとはわかっていながら、もしかするとを期待して持ってきました。

いつか、星村さんがこの手紙を読んだ時。もう一度だけ、妻の凛に会ってはもらえないでしょうか?


その言葉に、皆月龍次郎さんがこの手紙を持ってきたのだと気づいた。俺は、手紙を読み進める。


凛には、言わないで欲しいと頼まれている事が二つあります。一つは、星村さん達と撮影をした3日後の出来事です。あの日、凛は蓮見に脅されました。口で奉仕する事を要求されていました。そう、俺が星村さんに会いに行った日です。俺は、蓮見の娘から送られてきたメッセージで、その場所に向かいました。駅で、松田君と理沙ちゃんに会いました。蓮見は、刃物を使い凛を脅していました。俺は、これ以上凛の人生が壊されたくないと思ったのです。


皆月龍次郎さんは、蓮見と凛の事を詳しく知っていた事を、その言葉で俺はわかった。そして、まっつんと理沙ちゃんを口止めしたのは凛だという事、蓮見が捕まった事も手紙に書いていてわかった。そして、俺は次の手紙を捲る。


二つ目は、その次の日に美沙さんと言う女性に会いに行った事です。


美沙が、凛に…。


凛は、一人では会いに行けなかったから理沙ちゃんと一緒に行ったそうです。美沙さんから、色々言われたらしいです。ただ、その色々を私には教えてはくれませんでした。どうか、もう一度だけでいい…。凛に会って、凛の痛みや悲しみを拭ってあげてもらえないでしょうか?


俺は、龍次郎さんからのお願いを受け取った。


プルルー、プルルー


『もしもし』


「凛、会おうか?」


『無理だよ』


「待ってるよ!俺の部屋で…」


『今から……?』


「今からおいで」


『無理だよ!そんな事出来ない』


「何かあったんだろ?」


『何もない。何もないから…。拓夢は、元気で頑張って』


「来なくてもいいから、待ってる」


『無理だよ!行けない。もう、そう言うのは駄目だよ』


「待ってるよ」


『拓夢、駄目だって…言ってるでしょ?』


「それでも、待ってるから…。凛が決めればいい」


俺は、凛にそう言って電話を切った。凛の旦那さんが、会って欲しいと言うのなら…。俺は、凛に会いたい。だって、俺の中には、まだ凛がこんなにもあふれているから…。


凛が、悲しんでるなら…。俺は、抱き締めてあげたい。


沢山、話を聞いてあげたい。


忘れさせてあげたい。


それを凛が望むなら、俺は全部全部叶えてあげたいんだ。


また、世間に咎められる事になっても…。


ファンが離れてしまっても…。


理解されなくてもいいから、俺は凛の傍にいてあげたい。凛の涙を拭ってあげたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る