離してよ(拓夢の話)

「痛い」


俺は、美沙の腕をさらに強く握りしめた。


「やめてよ、拓夢」


「凛に、何を言ったか聞いてるんだ!」


俺は、美沙に怒った。


「何も言ってない」


「嘘つけ」


俺は、美沙の左右に揺れる目の動きを見逃さなかった。


「痛いって言ってるでしょ!」


「じゃあ、本当の事話せよ」


美沙は、俺の手を握りしめた。


「離して」


「嫌だ」


「離してくれないなら、DVだって言うから」


俺は、美沙の冷ややかな笑みを見て腕を話した。


「あーぁ、こんなに真っ赤になっちゃった」


美沙は、腕を擦りながら言った。


「美沙……」


「拓夢には、罰が必要だってわかってる?」


美沙は、そう言って冷たい目を俺に向けてる。


「罰って何だよ…」


「皆月龍次郎さんって優し過ぎると思わない?」


そう言って、美沙はスマホを取り出した。


「何で知ってる?」


「私ね、ちゃんと忠告しに言ったのよ。旦那さんに…」


「何で、美沙がそんな事する必要があるんだよ!」


俺の言葉に、美沙はクスクス笑い出した。


「何がおかしい?」


「不倫ってよくないよね?世の中的にアウトだって、ちゃんとわかってる?」


俺は、美沙の目を見れずに反らした。


「わかってないから!こんな風に書かれるんだよ」


相沢さんが見せてくれた掲示板を美沙は俺に見せてくる。


「だから、って正義気取ってんのか?」


俺の言葉に美沙は、また可笑しそうに笑い出す。


「だってね、みんな悪を成敗するのが好きじゃない?」


そう言いながら、美沙は嬉しそうにニコニコしている。


「だからね、代わりに美沙達がやってあげたの…」


「美沙…達って何だよ」


美沙は、不味いことを言ったって顔を一瞬して口を押さえた。


「他にも誰かいるのか?」


俺の言葉に美沙は、「いない」と言った。


その声は、とても小さくて聞き取りにくかった。


「誰かに脅されてるのか?」


俺は、美沙の手を掴んだ。


ゴトッ……。


スマホが床に落ちた。


「ごめん」


俺が拾おうとした時だった。


「拓夢、私と結婚しよう」


「えっ?」


意味がわからなくて、俺は困惑していた。


「責任とってよ」


「何のだよ」


俺は、スマホを取って美沙に渡す。


「赤ちゃんが駄目になった責任」


「それは、俺の子じゃないだろ?」


「じゃあ、DVだって世間に言うから…。ううん。あの人に言うから」


そう言って、美沙は俺が掴んだ腕を見せてくる。赤くなってるのがわかる。


「俺は、美沙とは結婚は出来ない」


「じゃあ、付き合って」


「好きになれないのにか?」


「関係ない」


美沙は、そう言いながら俺の手を握りしめる。


「拓夢次第では、あの人も不幸になるんだよ」


俺は、美沙の言葉に「わかった」と言うしか出来なかった。


凛にこれ以上の迷惑をかけたくなかった。


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