美沙の気持ち(拓夢の話)

「拓夢」


美沙は、そう言って俺の隣に座る。


「何?」


「SNOWROSE、売れなくてもいいの?」


「それは、俺が決める事じゃないから…」


「相沢マジックが失敗だって言われてるのわかってる?」


俺は、その言葉にコーヒーを飲んだ。


「あの人は、拓夢を不幸にしただけだよ」


俺は、その言葉に「違う」と言った。


「違わない」


「違う!凛がくれたのは幸せだ。美沙とは違う」


「どういう意味?」


俺は、答えたくなくて立ち上がった。美沙は、俺の腕を掴んだ。


「どういう意味って聞いてるの?」


俺は、美沙の言葉に「美沙は、俺に悲しみだけを残していっただろ?」と言った。


美沙は、俺の言葉に腕を離してくれる。俺は、立ち上がってコーヒーカップをシンクに持っていく。


シンクで、コーヒーカップを洗いながら、凛を抱きしめながら洗ったあの日を思い出していた。


「悲しみって何?」


美沙は、俺に近づいてきた。シンクにまだ満タンのコーヒーが入ったマグカップをいれてきた。


「俺は、美沙と別れてから絶望しかしてなかった」


俺の言葉に美沙は、俺を抱きしめてくる。


「私は、拓夢じゃなきゃ駄目だよ。今からだって、遅くないでしょ?」


その言葉に俺は、手を洗って美沙と向き合った。


「もう、遅いよ」


俺の言葉に美沙は、俺を覗き込むように見つめる。


「遅くなんかない!だって、私は結婚してないよ!あの人と一緒に何かなれないんだよ」


「わかってる」


俺は、美沙の抱きついてる腕を離そうとする。


「拓夢、私を愛してよ」


懇願する目に俺は、「無理だよ」と言った。


「じゃあ、最後にしてよ」


「無理だよ」


「どうして?」


「ごめん」


「何で謝るの?」


「ごめん」


俺の言葉に、美沙は俺の言葉にイライラしてきていた。


「拓夢しよう」


「無理だよ」


「どうしてよ!」


金切り声をあげながら、美沙は叫んだ。


「俺は、美沙じゃ、もうそうならないよ」


その言葉に美沙は、「嘘よ」と何度も繰り返す。


「嘘じゃないよ」


その言葉を信じたくないからか美沙は、俺のスーツのズボンの上に手を這わした。


「美沙、無理なんだよ」


俺の言葉に美沙は、スーツのズボンのベルトをはずそうとしてくる。


「やめろ!!」


俺は、美沙の手を掴んだ。


「痛い!」


「やめてくれよ」


「どうしてよ」


「俺は、もう凛に染まった、この身体を上書きしたくないんだよ」


美沙は、俺の言葉に俺を睨み付ける。


「俺は、もう二度と…」


そう言った俺に、美沙はキスをしてこようとする。俺は、唇を噛み締めから横を向いた。


チュッと頬に唇があたった。


「何で?何でよ」


美沙の言葉に、俺は、美沙を見つめて…。


「もう、俺は、身体中に刻み付けた凛を失いたくないんだ」


その言葉に美沙は、可笑しそうに笑った。


「子供も産めないような女に私が負けてるっていうの?旦那を捨てられないような女をずっと愛してるの?あの女は、拓夢を愛してくれなどしないのよ」


俺は、その言葉に美沙に尋ねる。


「もしかして、凛に会ったのか?」


美沙は、俺の言葉に少しだけ目を左右に揺らした。


「何を言った?」


俺は、そう言って美沙の手を強く握りしめた。


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