美沙と話す(拓夢の話)

「拓夢、私はあんな風に使われるなんて思ってなかったよ」


「白々しい嘘つくなよ」


美沙の目に涙が溜まってく。


「嘘じゃない!見せてって言われたから見せただけ」


「誰に言われたんだよ」


「そ、それは…」


「ほら、言えないだろ?」


俺は、美沙を睨み付ける。


「そんな目で見ないでよ」


「俺が、どれだけ凛を好きかも美沙にはわからないだろ?あんな掲示板作ったの美沙だろ?」


俺は、凛を失った痛みをぶつけるように美沙に言った。


「どうして?」


「何がだよ」


「どうして、あの人なの?あの人と、知り合って数ヶ月でしょ?」


俺は、美沙の言葉に大きくため息をついた。


「はぁー」


「何よ」


「人を好きになるのに、日にちなんか関係ないんだよ」


「そんなの嘘よ!拓夢は、じっくり人と付き合っていくタイプでしょ?」


美沙は、そう言って俺の頬に触れようとする。


「俺は、変わったんだよ!もう、あの頃とは違う」


俺は、美沙に触れられないようにかわしてキッチンに向かった。


「拓夢」


「コーヒーいれるよ」


俺は、ヤカンに水を入れて火をつける。


「あんな人のどこがいいの?もし、付き合ったって、結婚したって…。あの人は、拓夢の子供さえ産めないのよ」


勝ち誇ったように笑う美沙の顔を見つめていた。


「俺は、子供なんかいらない」


ピーとヤカンがやかましく音をたて始める。俺は、火を消してインスタントコーヒーをマグカップにいれてからお湯を注いだ。


「拓夢は、子供好きじゃない!嘘でしょ?」


俺は、砂糖とミルクをいれてから美沙にマグカップを渡した。


「美沙、もう古いんだよ」


その言葉に美沙は、ポロポロと泣き出した。


「時間は、あっという間に過ぎてく。美沙が見ていた俺は、もうここにはいないんだ」


俺は、諭すように穏やかに美沙に話していた。


「そんなの、嘘よ」


「嘘じゃない」


俺は、ダイニングの椅子を引いて腰かける。


「拓夢は、何も変わってない!私が知ってるままよ」


美沙は、そう言いながら泣き続けている。


「変わらない人間なんていないよ」


俺は、そう言ってコーヒーを飲んだ。


「人間なんて変わらないでしょ?変えられないじゃない」


俺は、美沙の言葉に首を横に振った。


「確かに根源にあるものは、変わらないかもしれない。でも、俺は凛に出会って変わったよ。ううん。新しい価値観を教えてもらったんだ」


「私じゃ出来なかったの?」


美沙は、涙目で俺を見つめながらそう言ってくる。


「少なくとも美沙じゃ出来なかった」


俺は、そう言ってコーヒーをまた一口飲んだ。


「あの人とは、付き合えないのよ?わかってる?」


「そんなのわかってるよ」


「SNOWROSEだって、あの人と付き合ったせいで売れないかもしれないんだよ」


「それなら、それで構わないよ」


俺は、美沙の顔を見て笑って言った。美沙は、俺の顔を見つめて怒っているようだった。

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