お疲れ様でした(拓夢の話)

「では、これからは溝口さん。よろしくお願いいたします」


「こちらこそよろしくお願いいたします」


気付けば、話は終わっていた。


「星村さん、お世話になりました」


「こちらこそ、最後まで立ち会えずに申し訳ありませんでした」


「いえいえ。いつか、また。食べに来てください」


「はい。勿論です」


俺は、店長と握手を交わして店を後にした。


「雨、まだ降ってますね!急ぎましょう」


「うん」


俺は、溝口に言われて急いで車に乗り込んだ。


「先輩、駅まで送りますよ」


「あ、ありがとう」


「疲れが出たんじゃないですか?顔色やっぱりよくないです」


「そうかな?」


俺は、頬に手を当てながら苦笑いを浮かべた。


「星村先輩、忙しかったからですよね」


溝口は、そう言うとシートベルトをつけてエンジンをかける。


「そうかもな」


「家まで送りますよ」


「いや。駅でいいよ」


「駄目ですよ!」


溝口に怒られて、俺は、頷いていた。


「明日休んだらどうですか?」


車を発進しながら、溝口はそう言った。


「休んだら、引き継ぎ出来なくなるだろ…」


「引き継ぎなんかより、先輩の体の方が大事ですよ」


「わかった」


俺は、溝口の言葉にそういうしか出来なかった。


「戻ったら先輩、明日休むって伝えときますから…。ゆっくり休んで下さい」


「悪いな」


「そんな事ないですよ!皆、先輩がデビュー出来るの知って喜んでるんですよ」


溝口は、ニコニコ笑っている。


「つきました」


「ありがとう」


「お疲れ様でした」


「うん、お疲れ」


「では、また」


「ああ、気をつけて」


俺は、車から降りて歩き出した。まだ、雨がパラパラと降っていた。さっき溝口が、嬉しそうに笑う横顔を見ながら、俺は最低な人間だと感じた。


部屋の前に見慣れた女がまた待っていた。


「また、いんのかよ」


「拓夢、話があるの」


「ストーカーだぞ」


俺は、美沙を無視するように家の鍵を開ける。


「お願い、話を聞いて」


「今日は、無理だ」


「じゃあ、いつならいいの?」


「わかんない」


「じゃあ、これを売ってもいいの?」


美沙が見せてきたスマホの写真に俺は固まった。


「入れ」


俺は、美沙を家にいれる。


「それを何で美沙が持ってる?」


玄関で美沙に俺は尋ねた。


「これは、私が撮ったのよ」


その言葉に俺は驚いた顔を美沙に向けた。


「そんな顔しないでよ!」


美沙は、そう言うと俺の頬にれようとしてくる。


さわるな!」


俺は、美沙のその手を払いのけて靴を脱いだ。


「だって、あの日。たまたま見つけちゃったの。まっつんの母親と一緒にいる拓夢を…」


リビングに向かう俺を追いかけながら美沙は言ってくる。


「だからって、今更、拡散する必要あんのかよ」


俺は、美沙への怒りを止められそうになかった。


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