いつか、また……(凛の話)

「知ってたの?凛さん」


その言葉に私は、頷いた。


「やっぱり、蓮見のお父さんを動かしたのも…。凛さんにあんな事させたのも…」


「もうやめて!」


私は、凛君に怒ってしまった。忘れたかった蓮見君との事を今更思い出したくなかった。


「ごめん……ね」


私は、泣きそうな顔をしている凛君に謝った。


「ううん。僕が悪いんだ」


「凛君のお母さんにこんな所見られたら駄目だから…」


私は、そう言って凛君から離れようとする。


「母さんは、関係ない!僕は、やっぱり凛さんと…」


「駄目だよ!凛君。それに私は、もう夫を裏切りたくない」


凛君は、私の腕を掴んでくる。


「離してくれない?」


凛君みたいな子供は欲しいと思った。でも、凛君とそういう関係にはなれなかったし、そんな目で凛君を見る事は出来なかった。


「凛さん、僕は凛さんが好きだよ」


「ありがとう。嬉しいよ!凛君みたいな若い子に好きだって言われて」


凛君は、その言葉に私を引き寄せて抱き締めてきた。


「離して欲しい」


「少しだけ」


そう言われて拒めなかった。


「凛さん、これが最後だから…。こんな風にするの」


「わかった」


「でも、二年後。僕が大人になって!凛さんとまた出会ったら…」


「うん」


凛君は、私から離れると「その時は、友達になってくれないですか?」と笑った。


「もちろん」


私は、そう言って右手の小指を突き出した。


「約束です」


「約束」


そう言って私と凛君は約束を交わした。


「凛さん、いつかまた」


「ここは、やめちゃうの?」


「はい!今日は、荷物を取りにきただけです」


「足のせい?」


「いえ、母さんが…。同じ事になったら、嫌だからやめろって」


「そうだったんだね。お疲れ様」


「ありがとうございます」


私は、そう言うと鞄から財布を取り出した。


「凛君、これで美味しいものでも食べて」


「これは、旦那さんのお金でしょ?」


凛君にそう言われてしまう。


「じゃあ、ちょっと来て」


「えっ?」


私は、凛君を連れて駅前のコンビニに行く。


「凛さん?」


ATMでキャッシュカードを入れて、一万円を引き出した。コンビニの外で待っていた凛君にそのお金を渡した。


「はい、裸だけど」


「これは…」


「私のお金」


その言葉に、凛君は首を傾げる。


「結婚する前に貯めていた貯金だから…。受け取って」


凛君は、その言葉に納得して頷いてから、「こんなには、もらえないよ」と一万円を返してくる。


「いいの。受け取って、お願い」


「ありがとう」


凛君は、そう言って一万円をポケットにしまった。


「じゃあ、ここで別れようね」


「うん。あの凛さん」


「何?」


「旦那さん、素敵な人だね」


そう言って、凛君は笑った。


「ありがとう」


「凛さんが旦那さん以上に誰かを好きにならないって…。旦那さんに会って話したら感じちゃった」


「そっか…」


「旦那さんは、本当に凛さんを愛してるのがわかった。僕は、敵わないって思った」


「そっか…」


「でもね、僕が凛さんを好きだったのは本当だよ!二年後、出会える事が出来たら、その時に聞いてくれる?」


「わかった」


「じゃあ、いつかまた」


凛君は、そう言って笑って手を振っていなくなった。


「いつか、また」


私は、小さく呟いて手を振り続けていた。

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