帰宅と理沙ちゃん(凛の話)

くるりと回転してから、私はスーパーに戻る。最後に、凛君に会えてよかった気がした。私は、迷わずにバターを手に取りお会計をする。鞄にバターを入れて、スーパーを後にした。


ブブブブ…


「凛、どこ行ってたの?」


バイク音が近いと思ったら、龍ちゃんだった。


「スーパー」


「何か忘れ物?」


「うん、バター」


龍ちゃんは、バイクのエンジンを切って押し始めた。


「先に帰っていいよ」


「もうちょっとだけ歩くよ」


龍ちゃんは、そう言ってバイクを押しながら歩いてる。


「もうすぐ、12月だよ」


「そうだな」


「色々あったね」


「そうだな」


治療を出来ないと言われた夏から、本当に色々あった。


「龍ちゃん、それでも一緒にいてくれてありがとう」


「何言ってんの!」


龍ちゃんは、そう言って前だけ見つめて笑ってる。


「じゃあ、俺。シャワー浴びとくわ!」


「うん」


「じゃあ、後でな」


「うん、気をつけて」


「凛も気をつけて」


龍ちゃんは、そう言ってバイクに股がってエンジンをかける。


ババババ…


バイクのエンジンの音を響かせながら龍ちゃんは消えていった。

私は、その姿を見つめていた。


ブー、ブー


「もしもし」


『凛ちゃん、メッセージ読んだよ』


「理沙ちゃん」


『相沢さんが来たの?』


「うん」


『たくむん、結構落ちてるみたいなんだよね』


「そうなんだ」


拓夢は、あの日、避けた事を気にしてるのかも知れないと思った。


『でもさ、いちいち凛ちゃんが気にしてたら

…。たくむんは凛ちゃんから離れられないでしょ?』


「そうなんだけど」


『凛ちゃん、二週間前に言った言葉忘れたの?私は、龍次郎さんを選ぶって言ってたでしょ?だから、たくむんの事は気にしないでいいんだよ』


「理沙ちゃんは、拓夢に会ってる?」


『私は、会ってないけど…。優太は会ってるよ!落ち込んでるけど、仕事の引き継ぎとかで忙しくはしてるって!気にしないで大丈夫だから…』


理沙ちゃんの明るい声に私は「うん」と頷いた。


『じゃあ、また!あっ!デビューイベントは、行こうね』


「もちろん」


『じゃあね』


「うん、バイバイ」


そう言って、理沙ちゃんからの電話は切れた。拓夢が落ち込んでいるのは、わかった。でも、理沙ちゃんの言う通りだった。

私が、今、拓夢に手を差し伸べる事はしてはならない。

拓夢も私も新しい道を歩いてるんだ。だから、もう…。


家について玄関を開けた。鍵を閉めて、靴とコートを脱いで、私はリビングに入る。


「おかえり」


「ただいま」


龍ちゃんは、シャワーから上がっていた。


「バターいれるだけ?」


「そう」


「へー」


「何そのいらなかったかもって顔」


「えっ、あっ!最近ほら、この辺がな」


そう言って、龍ちゃんはお腹のお肉を摘まんだ。


「おじさんだからじゃない?」


「ひどー。凛だって」


「おばさん?」


「ううん、お姉さんだな」


そう言って、龍ちゃんは私を抱き締めてくれる。


「おばさんだよ!私」


「まだ、いけるだろ?若い子が凛に惚れるぐらいだから」


「馬鹿じゃないの」


「馬鹿かもな」


「もう」


見つめ合う視線の先に龍ちゃんの笑顔があるだけで、もう何もいらないと少しは思えるようになってきたよ。

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