凛、泣かないでいいんだよ

私の涙がアイスコーヒーのグラスにポトポトと吸い込まれていくのを見つめながら、いちごサンドを噛る。甘くて、甘くて、苦しい味。


ガタッ…。


音がして、顔を上げる。


「凛、泣かなくていいんだよ」


そう言って、龍ちゃんの手が私の涙を拭ってくれる。


「龍ちゃん」


「生クリームついてる」


右手の親指は、涙を拭うのをやめてそのまま唇の端にいく。


「ごめんね」


「何で謝るんだよ!それにいつも泣いてばっかりだなー」


龍ちゃんは、そう言ってニコニコと笑ってくれる。龍ちゃんと話すとすぐに優しいってのがわかる。そんな話し方や声をしている。だから、結婚式でも友人が口々にこう言った。

「凛の旦那さん優しそうな人だね」って…。


私は、龍ちゃんの右手をギュッと握りしめて見つめる。


「どうした?」


その優しい声が、眼差しが、私をずっと甘やかしてきた。


「龍ちゃん、私…」


もう、決心は揺らがない気がする。わからないけど、今ここで宣言をしなければいけない気がする。


「どうした?」


「龍ちゃん、私」


うまく話したいのに、涙が邪魔をする。


「うん」


「私、もう…」


まだ、心の片隅にある拓夢への愛が邪魔をしている。


「うん」


私は、龍ちゃんの手をより強く握りしめて深呼吸をして、息を吐くのと同時に「もう、会わない」と囁いた。


龍ちゃんは、驚いた顔をしている。呼吸を整えて私は、いっきに龍ちゃんに話す。


「もう、星村さんには会わないから…。だから、龍ちゃん。夫婦をやり直してくれますか?」


龍ちゃんは、困ったように眉を寄せて「それでいいの?」と聞いてくる。


「いいに決まってるでしょ!私は、龍ちゃんの奥さんなんだから」


都合いい台詞を言う自分に吐き気がする。龍ちゃんが、優しいとわかっていながらそんな言葉を伝える自分自身に嫌悪すら湧いてくる。


「その言葉は、凛を苦しめないかな?」


龍ちゃんは、そう言うと私の頬から手を離そうとする。


「龍ちゃんは、私が嫌いなの?私がいらないの?」


龍ちゃんの答えをわかってるのに、私は酷い言葉を話してる。


「龍ちゃんは、私がいなくなったら嬉しい?」


わかってるのに、追い詰めるような言葉を口から吐き出す。醜い自分…。


「凛がいなきゃ!俺の人生なんか終わってる」


龍ちゃんの目に涙がどんどん溜まってく。ごめんねがうまく言えなくて、何度も何度も唾を飲み込む。


「俺、子供なんて欲しいのかな?俺は、本当は凛以外いらないんじゃないのかな?凛と生きていく未来以外いらないんじゃないかな」


大粒の涙が、龍ちゃんの頬を流れ落ちていくのが見える。私は、ごめんねを言おうと口を開けたり閉じたりを繰り返す。今、ちゃんと謝らなきゃいけないのに何でそれが出来ないんだろう…。


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