エピローグ【凛と拓夢の話】

話を聞かせてくれませんか?(凛の話)

やっと、言えそうな気がした瞬間だった。

私は、龍ちゃんに引き寄せられた。


「龍ちゃん……?」


「謝ろうとしてるなら、もういらないから」


私は、龍ちゃんの背中に手を回す。


「凛が泣かない夜を過ごせる事を俺は願い続けるから…」


「龍ちゃん、ありがとう。大好きだよ」


龍ちゃんも、私の背中に手を回してくれて抱き締めてくれる。

私達は、いつも通りの日常へと戻っていくのがわかる。

まるで、拓夢など存在しなかったように…。そうなっていくのを感じる。龍ちゃんは、私から離れた。


「凛」


「龍ちゃん、私、もう会わないから…」


私は、龍ちゃんの手を握りしめた。


「凛が決めたなら、俺は何も言わないよ」


そう言って、龍ちゃんは柔らかく笑った。


「もう、この話は終わりにしよう。俺は、星村さんと凛の事をこれ以上聞くつもりはないから…」


「わかった」


そう決めて、この話をもう二度としない事になった。


◆◆◆◆


あれから、二週間はあっという間に過ぎた。私と龍ちゃんは、拓夢に出会わなかった最初の日々に戻り始めていた。私は、久しぶりに凛君の働いているスーパーに足を運んでいた。シチューを作ろうと思ったのに、バターを忘れたからだった。


「いつか、会えないかと期待していました」


駅前で、声をかけられて私は振り返った。


「相沢さんですよね?」


「はい!お久しぶりです」


「お久しぶりです」


私は、相沢さんに頭を下げた。


「あの、私を待っていたのですか?」


「はい。ここ数日。皆月凛さんを待っていました」


「そうだったんですね!拓夢……。星村さんに何かあったのですか?」


胸がざわざわとして、相沢さんに尋ねていた。


「いえ、違います」


「じゃあ、何でしょうか?」


私の言葉に相沢さんは、ここでは話せないような顔をしていた。


「あの、どこか別の」


「あっ、すみません。車を停めてるので、そちらで」


「はい」 


そう言われて、私は相沢さんについていく。駅前のコインパーキングにつくと相沢さんは自分の車に近づき、後部座席を開けてくれる。私が、乗り込むとドアを閉めてくれた。

相沢さんも、運転席に乗り込んで、扉を閉めた。


「あのお話って…」


私の言葉に、相沢さんは「皆月凛さんとご主人に会って欲しい人物がいるんです」と言った。


「会って欲しい人物ですか?」


「はい」


「それは、どなたでしょうか?」


私の言葉に相沢さんは、眉を寄せてる。


「言えない人ですか?」


私の言葉に相沢さんは、首を横に振った。


「誰でしょうか?」


もう一度、私が質問をすると相沢さんは、ゆっくり息を吸って吐いた後で、「智天使ケルビムのボーカルです」とだけ言った。


私は、意味がわからなくて困惑していた。


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