まるで、生物じゃないと…
私は、答えられそうになくてパイナップルサンドを胃袋に流し込んだ。
「まだ、生理があるから考えられない?」
龍ちゃんの問いかけに頷いてしまった。
「女の人は、タイムリミットがあるからね。生理がなくなったり、子宮をなくすと一時的に私はいらない存在になったんじゃないかとか価値がないんじゃないかって思うらしいね」
龍ちゃんは、そう言ってブラックコーヒーを飲んだ。
「何で、そんなの知ってるの?」
「あー、ネットで調べちゃった。つい暇な時間が多くて。でも、それを読んで気づいたんだ。生き物にとって生殖能力をきちんと発揮できない事は死と似てるんだなって…」
私は、龍ちゃんの言葉に何も言えなかった。
「生きる事が子孫繁栄する事に繋がってるなら、凛と俺はどうなのかな?って考えたりもしたんだよ。赤ちゃんが出来ないだけで、まるで生物ではないと言われてるようだよな」
私は、涙を目にいっぱい溜めて龍ちゃんを見つめた。
「俺と凛は、哺乳類としては劣ってるのかもなって思った。だから、凛が星村さんと不倫するのは仕方ないのかなって思ったんだ。不倫を肯定するつもりはないよ。ただ、いつそうなってもおかしくない状況にずっといたんだよな!俺達は…」
そう言って、龍ちゃんはパイナップルサンドを食べ終えた。
「酸っぱ甘いな」
そう言って、唇の右端にクリームをつけながら龍ちゃんは笑っている。
「龍ちゃん、私」
「うん?」
「自分を否定してはいたよ」
龍ちゃんは、私の言葉にうんうんと頷いていた。自分が、ずっと価値がない生き物だって思っていた。
「女で産まれた意味がわからなくなる時があってね」
私は、涙が流れるのを止められなかった。龍ちゃんは、コーヒーを飲みながら泣いてる。
「何の為に、龍ちゃんと体を重ねるのかがわからなくなった」
龍ちゃんは、ただ黙って頷いてくれてる。
「だから、不倫したなんて言い訳おかしすぎるよね」
龍ちゃんは、私の言葉に「何者でもいたくなかったんだろ?」と言った。
私は、その言葉に頷いていた。皆月凛でも、龍次郎の妻でも、何者でもいたくなかった。
ただ、女で、ううん、メスとして生きたかったのかも知れない。
「俺、少しはわかってるつもりでいる。でも、全部を理解するのはまだ出来ないと思うんだ」
「そうだよね」
「それでも、感謝してるよ!星村さんには、本当に感謝してる」
龍ちゃんは、そう言っていちごのサンドを食べ出した。
私は、甘いカフェオレを胃袋に流し込む。
拓夢に感謝してるっていう龍ちゃんの言葉に嘘なんか一つもないのを私はわかってる。
出会ったあの日から、皆月龍次郎は何も変わってなどいない。
変わったのは、きっと私で…。
婚姻届を提出し、夫婦になったあの日から私だけが変わった気がする。
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