フルーツサンド

龍ちゃんは、私の笑顔を受け止めてくれるようにさらに手を強く握りしめた。


一度も手を離す事がないまま帰宅した。


玄関に入った瞬間、龍ちゃんは手を離した。


「さてと、お姫様好みのあまーい珈琲を淹れましょうか?」


「何、その言い方」


「ハハハ、面白くないか?」


「確かにね」


「人生って楽しんだ方がいいと思わないか?」


龍ちゃんは、そう言いながら靴を脱いでリビングに繋がる扉を開けて入っていく。


私も靴を脱いで、紙袋を覗き込んでいた。


人生って楽しんだ方がいいか…。私もリビングに行く。


「お湯沸かしてるから待ってな」


龍ちゃんは、部屋着に着替えていた。


「服、着替えるの早くない?」


「だろう?」


そう言って笑ってる。


私は、ダイニングテーブルに紙袋を置いてから洗面所に行って部屋着に着替えた。

戻るとまだ龍ちゃんは、キッチンにいた。


「そっちで待ってて」


「わかった」


私は、ダイニングテーブルの椅子を引いて座る。紙袋から、フルーツサンドをとりだした。


パイナップル、いちご、みかん、りんご、メロンをテーブルの上に並べる。


「多すぎたな」


龍ちゃんは、そう言ってグラスを2つ持ってくる。


「そうだね!アイスコーヒー?」


「うん。凛は、あまーいカフェオレ」


そう言って、グラスを目の前に置かれる。


「ありがとう」


「ううん」


私は、龍ちゃんに笑いかけてからフルーツサンドを選ぶ。


「どれにしようかな?」


「いちごが好きだから、いちご買ったよ」


「じゃあ、いちごしか選べないね」


「そんなつもりで言ってないから」


龍ちゃんは、そう言いながら笑ってる。


「パイナップルは、苦い思い出があるけど…。これは、食べたら甘いよね」


意味のわからない事を言う私を龍ちゃんは、見つめる。


「妊活、思い出すか?」


「う、うん」


「だよな。それは、俺も考えた。じゃあ、これは俺が食べようかな」


龍ちゃんは、そう言ってパイナップルサンドを取った。


「一個ずつにしよう」


私は、龍ちゃんにそう言っていちごサンドを渡した。


「そうしようか」


龍ちゃんは笑って片方をくれる。


『いただきます』


私は、パイナップルサンドを食べる。口に広がる甘味と酸っぱさ…


それを噛み締める度に、あの辛い日々が頭を流れてきた。


「夢は叶うって信じてたのにね」


私は、ゴクリと飲み込んで龍ちゃんに言った。


「確かにな。思い通りの人生って描けないもんだよな」


「そうだね」


「凛は、子供が出来なかったら、次はどんな人生を歩きたい?」


龍ちゃんの言葉に私は、またパイナップルサンドを食べる。どんな人生を歩きたいのだろうか?

子供に関わる事で救われる人もいるよね。


でも、私は?


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