またね、理沙ちゃん

その話が終わると電車は、私の住む街の最寄りの駅に着いた。


「理沙ちゃん、今日はありがとう」


「ううん。じゃあ、またね。凛ちゃん、龍次郎さん」


「うん、またね」


「気をつけて帰って下さい」


私と龍ちゃんは、理沙ちゃんに手を振ってホームに降りた。電車が発車するまで、見届けて理沙ちゃんがいなくなるまで手を振り続けていた。


「帰ろうか?凛」


「うん」


龍ちゃんは、私の手を繋いでくれる。


「フルーツサンドのお店によく入れたね?」


「凛に買おうって思ったら、入ってたよ」


「何それ!凄いね」


「凄いんだよ!凛はね、勇気をくれるんだ」


龍ちゃんは、そう言いながら頬を掻いている。


「そんな事ないよ」


龍ちゃんは、私の言葉に照れ笑いを繰り返す。


「そんな事あるよ」


手を離さずに改札を抜ける。


「うまく抜けれたな」


「無理だと思ってた」


「いけるもんだな」


龍ちゃんとの時間が、とても大切な事を私は忘れていた気がする。


「何かあったか?」


私の手をギュッと強く握りしめてから龍ちゃんは言った。


「う、ううん」


「嘘つかなくていい」


その言葉に私は泣いていた。


「龍ちゃん、ごめんね」


「ほら、いっつも謝る!何で、謝るんだよ」


龍ちゃんは、そう言ってポケットからハンカチを取り出して私に渡してくれる。


「ありがとう」


「うん」


美沙さんが拓夢を返してくれと言った後の言葉を探そうと手繰り寄せるけど…。頭の中にちゃんと入ってこない。


「凛、誰かに何か言われたんだよな」


「それは…」


「酷い言葉だったんだな。だから、頭の中に入らなかったんだな」


龍ちゃんは、私の事をきちんと見てくれているのがわかる。


「龍ちゃん、私…」


「言わなくていいよ。話したくなったらいってくれたらいい。無理して話す必要なんてない。そんな事をする必要ないだろ?俺達は、言葉にしなくてもお互いを解り合う努力してきたつもりなんだけどな」


龍ちゃんは、私の手をぶんぶんと振って歩く。


「私もそうだと思う」


それが間違いだとしても、私達は互いに考えてる事を想像したり、解り合うように努力してきた。


「凛が話したくなったら、俺はいつでも聞くから」


「うん」


無理に話してなどと言わない。いつか、話せる日がやってきたら話してくれるだけでいい。そんな事を思えるようになったのは、重ねた歳月のお陰なのはわかってる。


言葉にしなくても、寄り添ってあげたいと思える。相手が打ち明けるまで、じっと待っておくことが出来る。


「お腹すいたなー」


「帰ったら、これ食べない?」


「あまーい珈琲いれてあげようか?」


「うん」


私は、そう言って龍ちゃんに笑いかける。

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