それは、あなたの…

龍ちゃんは、その言葉に凛君の母親を見つめてこう言った。


「妻がですか?仮にも、彼は男ですよ。非力な妻とは違います」


「なーにが、非力よ!そんなの凛に決まってるじゃない」


龍ちゃんの言葉に、凛君の母親はケラケラと笑いだす。


「何がおかしいのでしょうか?彼が妻に強引に迫ったのでしょう。そんなの俺にはわかりますよ。妻は、未成年に何て手を出すわけがない。妻を力でねじ伏せようとしたのではありませんか?」


「ふざけんじゃないわよ」


凛君の母親は、声をあらげて龍ちゃんを睨み付ける。


「平田凛太郎君、本当の事を話してくれますか?」


龍ちゃんは、優しい声でそう言った。


「僕は、凛さんに無理矢理キスをしました。それは、この日では、ありません。星村さんに阻止されました。でも、僕は凛さんとエッチがしたいと思った。だから、力に任せて凛さんにキスをした」


「ふざけんじゃないわよ!何言ってのよ!凛。こんな女かばってんじゃないわよ」


バシャッ……


えっ?


私は、コーヒーをかけられた。


「自分の息子が認めていると言うのに何するんですか!」


龍ちゃんは、凛君のお母さんに声をあげた。


「大丈夫ですか?」


その声に、店員さんがやってきた。


「すみません。タオルを…」


「ああー、待って下さい」


そう言って、店員さんはおしぼりをたくさん持ってきてくれた。


「アイスコーヒーを追加できますか?」


「はい」


店員さんは、急いでいなくなった。


「大丈夫か?」


龍ちゃんは、そう言って私の髪や服をおしぼりで拭いてくれる。私は、鞄からハンカチを取り出して顔を拭いた。情けなくて涙が出てくる。透けたシャツからブラジャーが浮かんでる。ダサい。龍ちゃんは、立ち上がってスーツの上着を脱ぐと私に着せてくれた。


「汚れるから」


「大丈夫。気にするな」


そう言われて、私は龍ちゃんのスーツを着る。龍ちゃんの匂いがする。


「コーヒーお待たせしました」


「ありがとう。おしぼりごめんね」


「大丈夫ですよ」


店員さんは、お辞儀をしていなくなった。


「どうぞ」


凛君のお母さんは、苛立ちを隠せずにいるようだった。


「もう、これ以上の話し合いは無理そうですね」


龍ちゃんは、そう言うと立ち上がる。


「凛、帰ろう」


「うん」


私達が立ち上がろうとすると「ちょっと待って下さい」凛君が龍ちゃんにそう言った。


「もう、君の話を聞く必要はないよ。妻が申し訳ない事をしたね。君を傷つけただろう?」


その言葉に、凛君はボロボロ泣いている。


「そんな事してない!僕が、凛さんに抱かれたかったんだよ。凛さんは、何も悪くない」


その言葉に、龍ちゃんは名刺を差し出した。


「慰謝料を請求していただけたら助かります。君の心や体を傷つけたお詫びにはならないと思うけれど」と言った。


「違うって言ってます。僕は、望んで」


「お母さんは、そうは思っていませんよ」


龍ちゃんは、凛君にそう言うと私の腕を掴んだ。


「では、失礼します」


深々と頭を下げて、歩き出す。龍ちゃんの掴んだ手が震えているのがわかった。お会計を払って喫茶店を後にする。

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