話し合い

「お母さん、何してるんだよ」


松葉杖をつき、蓮見君の娘に支えられながら凛君がやってきた。


「お名前で失礼します。皆月龍次郎さん」


「あっ、はい」


龍ちゃんの名前が呼ばれる。


「あの、後でお話をしましょう」


龍ちゃんは、凛君に話しかける。


「わかりました」


凛君は、龍ちゃんに頭を下げた。


「凛、行ってくる」


「うん」


龍ちゃんは、そう言って診察に行った。残された私達は、何も話さなかった。どうしていいかわからないでいる時間が流れていく。


「お待たせしました」


重苦しい雰囲気を打ち消すように龍ちゃんが現れた。


「お会計は?」


「終わったよ!それじゃあ、行きましょうか」


「はい」


私達、5人は歩き出す。


「どこに行くの?」


「話が出来る場所だよ」


龍ちゃんは、そう言って病院近くの喫茶店に連れて行ってくれる。そこの奥にある席は、他の客からは見えずにまるで個室にいるみたいだった。私達、五人は座る。


「ご注文何になさいますか?」


「皆さん、コーヒーでいいですか?」


「はい」


凛君以外は、話しもしなかった。


「じゃあ、コーヒーを五つ」


「アイスでよろしいでしょうか?」


「それで」


「かしこまりました」


店員さんは、頭を下げていなくなった。私達は、また無言になった。店員さんが、アイスコーヒーを五つ運んできていなくなった瞬間。


龍ちゃんは、あの日私が気になっていたポケットの中のものを取り出した。


「これは、君だよね!平田凛太郎君」


そう言って、テーブルにチラシのような写真が置かれた。それは、あの日の凛君と私だった。


「間違いありません」


凛君は、龍ちゃんに怒られると思って俯いていた。そして、膝の上で手をギュッと握りしめている。


「そんなに固くならないでよ!」


龍ちゃんは、そう言って柔らかく笑った。

その姿に、凛君は驚いた顔を見せている。


「怒らないんですか?妻を寝とったのかとかって」


その言葉に龍ちゃんは、おかしくて笑った。


「君が、凛を寝とったって?ハハハ。面白い事を言うね」


その言葉に、その場にいる全員が龍ちゃんを見つめる。


「どうして言いきれるのですか?」


凛君の言葉に龍ちゃんは、そのコピー用紙の写真の私の顔を指差した。


「いやいや!この顔は、どう考えたって感じていないだろ」


「そんなのわからないじゃないですか!」


凛君の言葉に、龍ちゃんはため息混じりに「わかるよ」っと言った。私は、その言葉に泣いてしまっていた。


「どうしてですか?」


凛君は、少しむきになって龍ちゃんを見つめている。


「君がどう思いたいかは、知らない。でもね、こんな子供騙しの写真で俺を騙せると思ったら間違っている。俺は、妻がどんな顔をするのか、どんな声を出すのか、ちゃんとわかっている。勿論、彼女から音声も聞かされたよ!それでも気づいた。君と妻は、キスをしたかも知れないが最後まではしていないって…。ここまで、話してもまだ妻を寝とったと言うのかな?」


私は、龍ちゃんの言葉に涙がとめられずにいた。重ねた歳月が、無駄ではなかった事を知った。

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