病院にいた人

「龍ちゃん」


「タクシー乗ろうか」


「うん」


私の言葉を遮るようなそう言った。私は、龍ちゃんの優しさが本当に大好き。駅前で、タクシーに乗って病院まで連れてきてもらった。優しい人ってそんなにはいない。私は、知ってる。皆、自分の事で精一杯だし。うわべだけの優しさだけをなぞるだけしかしない。口では、優しい言葉を言いながらも腹の中では何を考えているのかもわからない。でも、龍ちゃんは違う。本当に優しい人間だって言える。赤の他人のニュースに泣いちゃうような人。知り合いでもない人が行方不明になったSNSを見て、丸一日心配しちゃうような人。


「つきました」


「はい」


龍ちゃんは、ポケットからお金を出していた。病院にタクシーがついて降りた。ずっと手を繋いでる。優しさだけを固めたような皆月龍次郎だからこそ、拓夢がうわべだけの優しさを向けていたら許さなかったのがわかる。


「凛、受付してくるわ!」


「私、手洗ってくる」


「あっ、俺も先にそうする」


二人でトイレで手を洗ってから、合流した。


「じゃあ、受付してくる」


「わかった」


龍ちゃんは、そう言っていなくなった瞬間だった。


「あんたね!何してくれてんのよ」


物凄い剣幕で現れたのは、凛君の母親だった。


「何ですか、急に」


「何ですかじゃないわよ!あんたのせいで、凛が死ぬとこだったのよ」


そう言って、私は彼女に腕を掴まれる。


「ちょっときな」


「やめて下さい。痛いです。離して」


凛君の母親に腕を引っ張られて行く。


「ちょっと何してるんですか!離して下さい」


龍ちゃんがやってきて、凛君の母親の手を取った。


「はあ?ああ!あんたが旦那か」


そう言って、龍ちゃんを値踏みするように見つめる。


「だったら、何だって言うんですか」


龍ちゃんは、その見定めに少しだけ怒っていた。


「あんたさ!知らないから教えてあげるけど!この女、不倫してるよ。可哀想だね。何も知らなくて」


そう言って、龍ちゃんは哀れみの表情を向けられていた。


「俺は、別に可哀想じゃありませんよ。妻が不倫していた事も知っています。そんな風に同情されなくても大丈夫です」


龍ちゃんは、そうハッキリと言った。


「へー。じゃあ、うちの息子としようとしたのも知ってんの?あんたさ!お人好しすぎるから不倫されんじゃないの。あー、可哀想。哀れだねー」


そう言って、凛君の母親は首を横に振って、手も、左右に振っていた。


「それは、そちらじゃないですか?そんな風に同情心を私に向けられるという事は、あなたもそうされたって事じゃありませんか?」


そう言って、龍ちゃんは仕事用の話し方をしながら凛君の母親に話した。彼女は、龍ちゃんに図星をつかれたようだった。

返す言葉をなくしたのか、黙りこんでいる。

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