病院へ向かう
「私、龍ちゃんと病院行くから…」
私が、そう言うと理沙ちゃんとまっつんさんは、うんと頷いていた。
「凛ちゃん、何かあったら連絡してね」
「わかってる」
龍ちゃんは、まっつんさんに何かを話していた。
「じゃあね!優太行こう」
「うん。それじゃあ」
まっつんさんと理沙ちゃんは、いなくなった。私は、龍ちゃんと並んで歩き出す。
「ごめんね、龍ちゃん」
「何で、凛が謝るんだよ」
龍ちゃんは、私を見つめながらくしゃくしゃと笑った。
「こんな事になっちゃって」
「泣くなって!凛が、何もされなくてよかったよ。あっ、待って」
そう言って、龍ちゃんはポケットからハンカチを取り出した。ハラハラと何かが落ちる。
「あいつにつけられたな!気持ち悪かったよな」
私の頬を撫でる、そのハンカチは少し濡れてる。
「龍ちゃん、何か落ちたよ」
私は、飛ばされないようにそれを拾った。
【星村拓夢】と書かれた名刺だった。
「ごめん。ポケットにいれて…」
龍ちゃんは、私の驚いた顔を見つめていた。
「会ったんだ」
そう言って、私の手から名刺を取ってポケットに入れる。さっきの怒っていた龍ちゃんの顔が浮かんだ。
「とれたかな?」
「大丈夫。病院で洗うから」
「そう」
そう言って、龍ちゃんは歩きだす。私もついていく。
「星村さん、想像してたよりいい人だな」
龍ちゃんは、私の顔を見ないまま歩いてく。
「もっと、悪いやつなら殴れたかな」
そう言って、蓮見のものを握った私の汚い手を握りしめてくれる。
「汚いよ、龍ちゃん」
「汚くない。例え、凛があいつとそうなっても…。俺は凛を抱くよ」
その言葉に、私は手を握り返す。
「龍ちゃん、いつから気づいてたの?不倫してるって」
龍ちゃんは、「最近」と小さな声で言った。嘘なのがわかった。龍ちゃんの声に宿る温度で、嘘をついてるのがわかっていた。
「そっかあ…。ごめんね」
私は、そう言うしか出来なかった。
「謝らなくていいんだよ。凛が、星村さんと出会って救われたならそれでいい。人間ってめんどうな事が嫌いだろ?だから、一歩踏み込んだ関係を嫌がる。でもさ、星村さんは違ったんだろ?凛の中に一歩踏み込んできた。凛の事を受け止めてくれたんだろ?それって凄いよな!凛の中を渦巻いてる痛みや悲しみに寄り添ってくれたんだろ?そんな事簡単に出来ないよ。俺は、星村さんと話して。覚悟みたいなのを感じたかな…。だから、怒れなかった。逆に、ありがとう何て言っちゃったよ。ハハハ」
そう言って、龍ちゃんは私と繋いでない手で頭を掻いていた。うわべをなぞるだけの優しさだったら、きっと龍ちゃんは拓夢を殴っていたのだろう…。龍ちゃんがいるのをわかっていながらも、私の傷をきちんと拭おうとする気持ちを汲み取ったのがわかった。
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