救ってくれてありがとう

「どうにか俺は、凛を救ってあげたかった。でも、俺といると凛は子供の事を考えてしまうのがわかっていたんです。どうしても、そこを切り離せないのは…。夫婦だからだと思っていました」


そう言うと、凛の旦那さんの目からポロポロと涙が流れるのが見えた。


「ですが、星村さんと出会い。星村さんと過ごす日々の中で、凛はどんどんと前に進めるようになったと思っています。俺には、出来なかったけれど…。星村さんには、出来たんです」


俺は、うまく言葉を話せない。


「今回、星村さんが新しい場所に連れて行ってくれたんですよね」


その言葉に、俺は頷いていた。


「これからも、凛をよろしくお願いします」


凛の旦那さんは、また深々と頭を下げる。


「顔をあげて下さい」


俺の言葉に、旦那さんは顔をあげるとこう言った。


「蓮見の事は、聞いていますよね?」


俺は、何も言えずに黙っていた。


「話していないのなら、お話しない方がいいですね」


「少しだけなら…」


俺は、嘘をついた。


「そうですか…。俺と結婚する前に、凛は蓮見と色々あったようです。当時の彼女だと名乗る人から全てを聞きました。それでも、俺は凛と結婚しました。何故だかわかりますか?星村さん」


「いえ」


俺の言葉に、凛の旦那さんは穏やかな笑みを浮かべる。


「凛が、星村さんに何を話したかはわかりません。ただ、結婚したのは俺の為なんです。俺の人生に、凛が必要だったそれだけの事です」


その言葉の裏には、凛を誰にも渡さないって思いが含まれていた。


「こんな事を言いに会社まで来てしまってすみません」


「いえ…」


「松田さんに教えていただいたんです。星村さんの仕事先を…」


「そうですか」


「理由は、これです」


そう言って、凛の旦那さんはスマートフォンの画面を見せる。あの掲示板だった。


「昨夜、帰宅した時に凛が話してるのを聞いたんです。それで、お会いしようと決めました」


「そうだったんですね」


「この事が、星村さん達のメジャーデビューに影響するのではないかと思ったからです。だから、知って欲しかったんです。俺は、星村さんを恨んではいないし…。ここに書かれているような気持ちも持っていません。さっきも言いましたが、世間が何と言おうと俺は凛を救ってくれた事を感謝しているんです。だから、もし、この事が影響するのなら…。俺が力になりますから」


皆月龍次郎と言う人物は、想像より遥かに凄い人間だと思った。凛が、彼と別れたくない理由も俺にはわかった。


「ありがとうございます」


俺は、この人には敵わない。


「すみません。では、失礼させてもらいます」


「はい」


凛の旦那さんは、頭を下げていなくなった。結婚してるって、余裕なんだな…。あの人からは、凛がいなくなるかもしれないって感情きもちを感じなかった。俺みたいな奴を凛は、選ばないって最初からわかってるみたいだった。

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