電話してきた人

「もしもし」


『もしもし、拓夢!あんた何で来ないだのライブ言わなかったのよ』


「あー、それね」


母からだった。


『それねじゃないわよ!行ったのよ!うちわ作って』


「いやいや、そう言うのはいらないから」


俺は、苦笑いを浮かべながらビールを飲んだ。


『いらないじゃないの!いるでしょ!ほら、あのアイドルも』


「はいはい」


母は、あるアイドルグループが大好きだった。いつも、それと俺のバンドを比べる。


『はいはいじゃないわよ!次は、いつあるの?』


「まだ、わかんないよ」


『そう!じゃあ、ある時は言いなさいよ』


「わかってる」


『じゃあね』


「はい」


プー、プー。


「はあー。めんどくさい」


応援してくれるのは、嬉しいけど…。鬱陶しさは、あるな。


「ごちそうさまでした」俺は、そう言ってお皿を下げる。お皿を洗いながら、あの日凛と抱き合いながら洗ったのを思い出していた。


「凛に会いたい…」


俺の人生には、凛が必要だ。相沢さんから言われたその想いは叶わないの言葉を思い出して泣いていた。叶わない事なんてわかってるくせに苦しい。


愛する人と結ばれるなんて奇跡だな。凛に出会って初めてそう思った。愛する人と一緒に生きていけるなんて奇跡だよな。


「さあて!寝よう」


鬱々した闇に引き込まれる岳だから、夜はさっさと寝るに限るだな!俺は、ビールをいっきに飲み干した。

歯を磨いてから、ベッドに寝転がった。


凛の匂いがする。


「凛」


シーツを手繰り寄せながら、俺は深い眠りについた。


ピピ、ピピピ、ピピ


「うーん」


目覚めた朝の虚しさって何だろうか?


「凛がいないからだよな」


俺は、ベッドを撫でて起き上がった。いつまで、こんな気持ちを抱えて生きてくんだろうか?俺は、引きずるようにベッドから降りて洗面所に行って歯を磨いて顔を洗った。

帰ってきたら、凛にかけるかな。

化粧水をつけて、髪をセットする。

キッチンで水を飲んで、いつも食べてるパンを口にいれようとしてやめた。


アンジェロのパン食べよう。


ブー、ブー


「もしもし」


『拓夢、朝御飯食わない?』


「いいよ!アンジェロで食べようと思ってた」


『アンジェロって、拓夢の駅だよな』


「向こうにもあるけど」


『じゃあ、向こうのにしようか』


「そうだな」


『じゃあ、今から出るわ』


「俺も出るわ」


『後で』


まっつんからの電話が切れる。レコーディングしに行くぞ!


俺は、凛と選んだスーツを着る。凛といるみたいで嬉しい。


「頑張るぞ」


気合いを入れてから、玄関を出た。俺は、鍵を閉めて駅へと急ぐ。昨日降っていた雨は止んで、足元にはたくさんの水溜まりが出来ていた。これが俺の現実だよな!水溜まりを踏まないように気を付けながら急いだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る