最後のデートに向かう

私は、その手に手を重ねる。


「用意して、朝御飯食べよう」


「うん。化粧する」


「すぐ、泣いちゃうのに?」


「泣いちゃってもするの」


「わかった!してきて!俺、服着替えるから」


「うん」


「凛、昨日のズボン嫌だろ?これ、履いたら?」


拓夢は、ウエストがゴムになってるズボンを渡してくれる。


「いいよ!大丈夫」


私は、そう言って笑って洗面所に行った。鞄から、化粧ポーチを取り出して化粧をした。マスカラとファンデーションと口紅と眉ペンしか入ってなかった。泊まるつもりは、なかったから…。


「はぁー」


もっと、バッチリメイクにしたかった。


「凛、ブラジャー」


「ありがとう」


拓夢は、私のブラジャーを持って現れた。


「つけたげようか?」


「自分で出来るよ」


「つけさせてよ」


「うん、わかった」


私は、拓夢に背を向けてTシャツを脱いだ。


「はい」


「ありがとう」


ブラジャーを受け取ってつける。


「ホック止めるよ」


「うん」


拓夢の指先を背中に感じる。


「出来たよ」


「ありがとう」


目を閉じて、ちょっとだけエッチな想像をしていたのは内緒にしておこう。私は、Tシャツを取って着る。


「凛、エッチな事考えてただろ?」


「そんなの考えてない」


「嘘だ」


「嘘じゃない」


私は、首を左右に振る。バレていたのが、恥ずかしい。


「ここ触られたら弱いからだろ?」


そう言って、Tシャツの上から背中を撫でられる。


「そんな事ないから」


「嘘!じゃあ、もうしない」


「意地悪」


「じゃあ、弱いって言って」


「弱い…」


「良くできました」


そう言って、拓夢は私をギュッーっと抱き締めてくれる。


「行こう」


「うん。行こう」


私は、拓夢の背中に手を回す。


「今日一日、俺と凛は恋人だから」


「うん」


「じゃあ、行こう」


拓夢は、私から離れると手を繋いで引っ張っていく。


「忘れ物ない?」


「待って!見るから」


私は、鞄を確認する。


「スマホ忘れてた」


「あっ!部屋だな」


「うん」


私と拓夢は、部屋に戻る。


「はい」


「ありがとう」


スマホを鞄に入れる。


「じゃあ、行けるな」


「うん」


拓夢は、珍しく斜めがけのバックを下げている。ボディバックってやつだ。


「どこで、ご飯食べるの?」


「駅前のカフェで食べようと思って」


「美味しいの?」


「美味しいよ!それだけじゃないけど」


私と拓夢は、玄関で靴を履いて、家を出る。


「それだけじゃないって?」


歩きながら話す。


「凛がいつか、懐かしいって思って食べれるように…。あっ!勿論。俺もね…」


「この街を離れるから?」


「そうだね」


拓夢は、私の手を握りしめてくる。


「駄目だよ」


「そうだな!あっちまで、これは我慢しとく」


そう言って、手を離した。そして、手が触れるか触れないかの距離を保ちながら、私達は歩いて行く。


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