最後のデートの朝

ピピピピー


「うーん」


目覚まし時計のアラームで、私は起きる。


「おはよう、凛」


「おはよう、拓夢。起きてた?」


「今、起きた」


「用意しなきゃね」


「シャツ貸すよ」


「ありがとう」


私は、伸びをして、ベッドから起き上がった。


「朝御飯、駅前のカフェで食べようか」


「うん」


拓夢と一緒に洗面所に行って歯を磨いて顔を洗う。


「はい、化粧水」


「使える?」


「女の人が使うやつ使ってるから!」


「どうして、女の人が使うやつ?」


「あー。美紗から聞いて使いだしたんだ。嫌なら」


「使う」


私は、化粧水を借りた。


「凛、スッピンでもいいのに…」


「出掛けるから、化粧する」


「裸見られるみたいなもんか」


「そんな事はないけど…。でも、やっぱり薄化粧でもしないとね」


「わかった」


拓夢は、そう言って笑ってくれる。私は、拓夢とキッチンに向かった。


「はい、お水」


「ありがとう」


今日が終わって明日になったら、こんな日はこない。そう思うだけで悲しい。


「朝から泣かないで」


勝手に涙が流れてきた。


「ごめんね」


「永遠の別れみたいになるだろ?違うから」


「わかってる」


でも、もしこの先何かあったとしても…。


私は、拓夢にこんな風に触れられない。

こんな風に触れてもらえない。


「凛、大丈夫だから」


拓夢が両頬に手を置いてくれる。


「ムギュってしないで」


「何で?可愛いよ」


そう言った瞬間、キスが降ってきた。涙を流しながら目を閉じる。


「凛、用意しよう」


「うん」


「ほら、泣かない」


拓夢は、Tシャツを捲って涙を拭いてくる。


「いい匂いがする」


「だろ?」


「臭いっていおうと思った」


眉毛をわざとらしく寄せてみせる。


「まだ、大丈夫だろ?20代だから!」


「そうだね」


「嘘だよ!お酒飲んでるわりに体臭少ないかな?」


拓夢は、私の体を引き寄せて抱き締める。

拓夢との日々が、もっと続けばいいのに…。


「そうかも」


「よかった!じゃあ、用意しようか?Tシャツ貸すよ」


「ありがとう」


拓夢と寝室に戻るとTシャツを選んでくれる。


「こんな色も着るの?」


「あー、ピンク!何か、かねやんに着てみたらって言われて買ったんだよ!凛着る?」


「くれるの?」


「あげるよ!二回しか着なかったから」


そう言って、拓夢は薄いピンク色のTシャツを渡してくれる。


「ありがとう。大切にする」


「そんなたいしたもんじゃないって」


「でも、大切にするから…」


私は、受け取ったTシャツを抱き締めて笑った。


「凛、可愛いな」


拓夢は、そう言って私を引き寄せて抱き締めてくる。


「もう、イチャイチャしたら時間なくなっちゃうから」


「凛が悪いんだろ?」


「そんな事ない」


「可愛い!」


拓夢は、笑いながら私を強く抱き締めてくれる。このまま時間が止まればいいのに…。20代なら、きっと拓夢の元に迷わずにきたんだと思う。


「ほら、また泣く。すぐにそんな顔したら、ブスになるよ」


そう言って、拓夢は私の両頬に優しく両手を当ててくれる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る