旦那さんには、連絡した?

トイレに行って戻ってくると、凛はキッチンで鍋を見つめていた。俺は、凛に近寄る。


「旦那さんには、連絡した?」


「したよ」


「何て言ったんだ?」


「理沙ちゃんちに暫くいるって。あっ、実はね、理沙ちゃんとまっつんさんと夫とご飯食べたの」


「そっか」


「理沙ちゃんなら、安心だねって」


「そっか」


「それで、電話切ろうとしたら、ごめんなって言われちゃった」


そう言って、凛は泣いていた。


「いいよとか何も言えなかった。ただ、何でって聞いてた」


「うん」


「そしたら、何でもないから忘れてって言われて切られちゃって…。もう、かけ直すとか出来なかった」


俺は、涙を流す凛を抱き締める。


「頑張ったね」


そう言って、背中を擦った。


「きっと、もう、全部バレてるんだよ。あの子が、全部話しちゃったんだよ」


「まだ、わからないだろ?」


「わかるよ!だから、軽蔑したんだよ。結婚まで、蓮見君と関係してた事もわかっちゃったんだよ。もう、全部終わりだよ」


「凛、自暴自棄になっちゃ駄目だよ。まだ、何もわかってないから…。俺が、全部解決してやるから」


「どうやって?」


凛は、俺から離れて顔を覗き込んでくる。


「平田さんに蓮見の娘に会わせてもらうから!だから、凛は何も心配するな」


「拓夢に迷惑かけてごめんね」


「迷惑じゃないから…。撮影が終わったら、動くから…。遅くなるけど、ごめんな」


「全然、大丈夫だから」


「後、帰るなら、帰っていいから…。ちょっと待って」


俺は、リビングにある引き出しつきの棚を開けて合鍵を取った。


「凛」


「何?」


「俺、明日から仕事だから、これ鍵」


「ありがとう」


「後、一万で足りる?」


「いらない」


俺は、凛の手にお金を握らせる。


「こっちにいる間は、使って!足りなくなったら、また渡すから」


「拓夢」


「旦那さんのお金だろ?俺といるのに、使っちゃ駄目だよ」


「ごめんね」


「だから、謝らないでいいって」


俺は、凛の両頬を軽くつねった。


「笑ってよ!泣かないで、笑ってて」


凛は、その手に手を重ねてくる。


「拓夢、ありがとう」


ニコっと笑う凛の顔に、俺は泣いていた。


グー


「お腹すいたみたいだわ」


俺は、自分のお腹に手をやって笑う。


「もう、出来るから座ってて」


「わかった」


ダイニングテーブルに戻って、俺は座る。今さら、プラトニックな関係にはなれないのはわかっていた。俺は、自分の煩悩を消す為にスマホを見つめる。凛が、ロールキャベツを持ってやってくる姿を見つめる。それだけで、顔がにやける。抱き締めて、キスしたい衝動にかられる。駄目だ、駄目だ。


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