会いたくなかった人

『ごちそうさまでした』


食べ終わるのは、いつも同じぐらいだった。


「着替えてくる」


「うん」


私は、ダイニングテーブルを片付ける。その間に龍ちゃんは、服を着替えてきた。


「今日は、スーツじゃないね」


「当たり前だろ?何で?スーツの方がよかった?」


「そんな事ないよ!仕事着も似合ってる」


「ありがとう」


龍ちゃんは、玄関に行く。私も、後ろからついていく。


「じゃあ、行ってくる!ゆっくり過ごして」


「うん!バイク?」


「バイクだよ!じゃあ、行ってくる」


龍ちゃんは、私を引き寄せて抱き締めてくれる。


「行ってらっしゃい!気をつけてね」


「行ってきます」


チュッと龍ちゃんと音が出るキスをした。


「行ってらっしゃい」


私は、手を振って見送った。龍ちゃんは、鍵を閉めてくれた。龍ちゃんは、バイクで仕事に行っていた。


「さてと」


お皿を洗って、掃除機と洗濯したら、理沙ちゃんにメッセージ送ろう。私は、いつもの繰り返しをしてから理沙ちゃんにメッセージを送った。


ブブッ


【11時半に駅前で行けるかな?】


【大丈夫】


【じゃあ、凛ちゃん家の所の駅に行くね】


【わかった】


やりとりが終わった。


「残りをいっきにやっちゃおう」


私は、残りをいっきにやる。


「用意しようかな!」


全部が終わった頃には、10時前だった。寝室のクローゼットから洋服を取り出す。理沙ちゃんとだから、これでいいよね!ジーパンとまだ残暑が厳しいから薄手の七分袖にしとこ!薄化粧をして、鞄は同じでいいよね。久しぶりに龍ちゃんとお揃いのペアウォッチをはめた。11年目の結婚記念日に、時計を買いたいと何故か思って口に出した。龍ちゃんは、いいねと言ってくれて二人で買いに行ったのだ。


「行かなきゃ!」


時計を見ると、11時になる所だった。急いでる気でいたけど、女性の用意は一時間はかかるとしみじみ思ってしまった。


私は、ガスの元栓を切ってコンロにロックをかける。ショルダーバックにスマホをいれて、玄関で新しいハンカチと古いハンカチを交換した。


「拓夢に返してなかった」


取り出したハンカチが、拓夢のものだと気づいた。次、会う時に渡す。私は、別のハンカチを取って家を出る。

鍵をかける。


「皆月さん」


あちゃー。急いでる時に一番会いたくない方に出会ってしまった。


「こんにちは」


「こんにちは!お出掛け?」


「はい、友人と…」


「皆月さん、昨日、旦那さんが女の人といたじゃない!浮気されてるのかと思って心配したのよ!私」


「昨日ですか…」


「ほら、何か若い子だったでしょ?親戚の子だって言ってたから、心配して損しちゃったのよ!だって、どう見ても未成年で援交かと思ったのよ」


坂東さんは、そう言って嬉しそうに話してくる。

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