理沙ちゃんと会う

「坂東さん、皆月さん困ってるわよ!昨日の夕方の話でしょ?」


「あら、長野さん。そうよ!私、心配したのよ!皆月さん所、二人だから…。てっきり、旦那さんが若い女に乗り換えたかと思って」


「そんなわけないじゃない!ねー、皆月さん」


「はい!親戚です」


私は、咄嗟に嘘をついた。


「あら、やっぱりそうだったのね!心配して損しちゃった」


「だから、言ったじゃない」


「皆月さんの方も親戚だったのよね?」


「えっ?」


全く意味がわからなくて、固まっていた。


「あー、ほら!男の子と居たでしょ?」


「何の話ですか?」


「とぼけないでいいのよ!アイドルみたいな子」


その言葉に凛君だってわかった。


「スーパーの子ね」


「あ、友人の子供なんです」


「あら!あんなに大きな子供がいるの!ビックリだわ」


「そうなんです。ハハ」


私は、愛想笑いをしていた。いつ見られていたかわからないけれど…。駅前のスーパーは、この辺りの人はだいたい行ってるから…。


「やだわー。お嫁ちゃんに言っとくわ!皆月さんが、不倫してるとか言ってたのよ!ごめんなさいね」


「いえ、大丈夫です」


その通りだ!だけど、私は嘘をついた。


「すみません、私用事が…」


「ごめんなさいね!引き留めちゃって」


「坂東さんは、すぐに知りたがるんだから」


「仕方ないじゃない!旦那さんの事も見た以上聞かなくちゃ」


「大丈夫ですよ」


「じゃあ、気をつけて!皆月さん」


「はい、失礼します」


私は、わざとらしく走った。心臓がドキドキと脈を打っているのがわかる。龍ちゃんが、若い女と会っていたってどういう事?


「はぁ、はぁ、はぁ」


家から離れて、歩き出す。涙が流れてくるのを感じる。自分だって、拓夢と不倫をし、凛君とやらないまでもあんな事をした。そんな人間が、龍ちゃんを責める権利なんかない。なのに、何で許せないのかな?


龍ちゃんは、私しかいらないと信じていた。龍ちゃんは、揺るがない存在だと信じていた。私は、自分勝手な生き物だ。


駅についた、鞄からハンカチを取り出して目を押さえる。


「凛ちゃーん」


ポンポンと肩を叩かれて振り返った。


「遅刻してごめんね」


「どうしたの?何で泣いてるの?」


理沙ちゃんは、驚いた顔をしていた。


「ここじゃ…」


「じゃあ、電車乗ろう」


理沙ちゃんは、そう言って切符を買いに行って戻ってきた。


「凛ちゃん、行こう」


手に切符を握らせられた。理沙ちゃんは、腕を引っ張っていく。改札を抜けて、ホームに降りると快速電車が停まっていた。


「これに、乗るよ」


そう言って、理沙ちゃんは私の腕を引っ張った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る