動画と電話

俺は、テーブルの端に置いていたイヤホンを取った。耳にいれて、昨日の動画を再生しながら、パンとコーヒーを食べている。


凛の顔が映し出されてる映像を見つめる。もう、こんな風に出来ないからって撮影した。凛が悪い人間なら、俺の動画は売られるんだろうなー。


安易に動画を撮らせるからだーとかって世間に叩かれるんだろうな…。でも、俺は、この動画を撮ってよかったと思ってる。


俺は、イヤホンを外して、動画を一時停止する。


画面に映る凛の輪郭を指でなぞる。


「凛、愛してるよ」


ブー、ブー


「もしもし」


『おはよう』


「おはよう」


『昨日、智が来てたらしいんだ。チケット買って』


電話は、まっつんからだった。


「そっか」


『理沙が、俺達に会ってかないのかって聞いたら、会わない、会いたくないからって言って帰って行ったらしいんだ』


「そっか」


『あのさー、拓夢』


まっつんは、話しづらそうにしてる。


「何?」


『あの掲示板作って書き込んだのって、智じゃないのか?』


まっつんの言葉に、俺は固まっていた。


「そんなわけないだろ」


『俺も、そう信じたかったんだけどさ!内容からして、智以外で知る事はあり得ないと思ったんだよ』


「何で、智がそんな事するんだよ」


『メジャーデビューされんの嫌だったのかなって』


「そんなわけないよ!智は、誰よりも俺等を応援してくれてるはずだよ」


『どうかな?智だって、辞めたくなかったんじゃないのかな?本心では』


「まっつん、そんな悲しい事言うなよ」


俺の言葉に、まっつんは少しだけ無言になった。そして、『三日後、契約しに行った帰りにでも、智に話し聞きに行かないか?みんなで』と言ってきた。


「いいよ!智は、そんなやつじゃないから!聞きに行こう」


『じゃあ、三日後な』


「うん」


プー、プー。


俺は、まっつんの言葉に少しだけイライラしながらパンを噛る。智が、そんな事するわけがない。それに、智はまっつんの母親との事なんて知らないはずだ。


切れたスマホを見つめると凛が現れた。俺の苛立ちが静まってくのを感じる。


「凛」


俺は、スマホの凛の画像を指で触れる。


「智がそんな事しないよな!凛なら、そんな事しないって言ってくれるよな」


コーヒーを飲む。凛の画像が滲んでいく。


もしも、智だったら?


メジャーデビューしたかったって事なのか?


だったら、今からだって一緒にすればいいだけの話じゃないのか?


わざわざ、SNOWROSEを潰す必要がどこにあるんだ?


考えても、考えても、わからなかった。

俺には、智がそんな事をする理由が見当たらなかった。


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