朝…

カーテンの隙間から漏れてくる光で、俺は朝になったのを気づいた。


「ヤバ、もう朝だ」


会社を休んでいてよかった。有給があったから、俺は消化する為に暫く休みを頂いていた。元々、バンドをしているのを知っている会社の人達は俺がいつかメジャーになるのを楽しみにしてくれていた。今まで、ほとんど纏まった有給を使った事は一度もなかった。


シャーっとカーテンを開いて、外を見つめる。この数週間で、いろんな事が目まぐるしくかわった。


人生ってそんなもんだよな…。何が起きるか何かわからない。あの日、智がバンドを辞めるって言わなかったら、凛と関わる事はなかった。


「濃い時間だったな」


俺は、カーテンを閉めてキッチンに行く。俺は、ヤカンに水をいれてお湯を沸かす。この先、どんな恋愛をしても俺は凛を忘れないのがわかる。


たった数週間が、数ヶ月にも数年にも感じる濃い時間を過ごした。

俺は、マグカップにインスタントのコーヒーの粉を注いで沸いたお湯を注いだ。


ポケットにいれっぱなしだったスマホを見つめる。


【無事につきました。今日は、ありがとう】


凛からのメッセージは、五時間以上前だった。


「うわー。あり得ない事したわ」


俺は、今さらながらメッセージを返す。


【無事についてよかった。ゆっくり休んで!また、会えるのを楽しみにしてる】


ありきたりな文章だったかな?


ブブッ


【おはよう。私も楽しみにしてる】


凛のメッセージに顔がにやけてくる。俺は、多分世界で一番浮かれてる。

コーヒーといつものパンを持ってダイニングテーブルに行く。


【また、時間と場所わかったらメッセージするから】


愛してるって言い続けたい。でも、そんな言葉を送るのはやめた。

コーヒーを飲みながら、パンを噛る。ネットの記事を俺は見つめていた。


【milk、1000人限定ライブ】と書かれた記事を見つけてクリックする。


【昨日1000人限定でmilkのライブが行われていた。どうやら、milkの弟的存在のバンドが発表されたらしい。まだ、全貌は事務所から明かされていないから詳しくかけないのが残念だ。ただ、一つ言えるのは素敵なバンドだった。相沢マジックが、またかかりそうな気が私はしている】


その後は、相沢さんについてが長々と書かれていた。相沢マジックか…。もし、そうなら嬉しいな!


そう思いながらも、嬉しさと悲しさが俺の心の中に同居してるのがわかる。長年の夢を叶える嬉しさとそのせいで凛との関係を終わらせないといけなかった悲しさ…。


本当は、俺…。


バンドのメジャーデビューより、凛をとりたかったんだと思う。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る