映画

「じゃあ、出発するよ」


「はい」


エンジンをかけて出発する。


「龍ちゃん」


「何?」


「子供がいない人生でよかった事はある?」


「うーん!あるよ」


「何?」


「休日に早起きしないでいい」


「確かに、他には?」


「そうだな!早寝しなくていい」


「確かに、そうだね」


でも、そんなんしかないんだよね。


赤信号で車が停まった。龍ちゃんは、前をみて淡々と話す。


「教育上よくないって言われるようなTVを見れる!行儀悪いって怒られるような事出来るだろう!それから、いつでも、凛を抱ける」


「変態」


「悪かったな!」


「フフフ、最後のが一番でしょ?」


「当たり前だ!いつでも、凛に触れていたいよ!どの瞬間でも、俺は…。あっ、ちゃんと外ではしませんから」


「当たり前だよ」


私の言葉に龍ちゃんは、私を一瞬見てから、前を向いた。


「やっと、笑ったな」


車を発進する。


「そう?」


「何か、また見たんだろ?朝、起きたら凛が抱きついてるから…。そんな気がした」


「ごめんね」


「謝る必要なんてないよ!年齢的にも、まだ子供が欲しいのは当たり前だと思うんだ。タイムリミット何かなかったら、皆幸せなのにな!1000年ぐらい生きれたら、きっと全員子供産めてるよな」


龍ちゃんは、そう言って笑ってる。複合施設の駐車場についた。あの日、虹色の傘を買ってくれた所。


「もうすぐしたら、諦められるから…。だから、もう少しだけ待ってて」


「いつでもいいから」


龍ちゃんは、車を停める。私は、車から降りた。龍ちゃんも降りてきて、さっと手を繋いでくれる。二人で生きて行く未来に、まだ慣れないの。


ごめんね。龍ちゃん…。


映画館で、龍ちゃんはチケットを買ってくれる。


「ポップコーン食べる?」


「いいよ」


「飲み物は?オレンジ?」


「うん」


龍ちゃんは、ペアセットって言うのを頼んでる。


「すぐ始まるって!凛、トイレは?」


「行く」


「先、行ってきて」


「わかった」


私は、先にトイレに行ってから戻って龍ちゃんと交代した。


「じゃあ、行こうか」


「うん」


私と龍ちゃんは、しんの映画を見る。終わる頃には、泣いていた。智天使ケルビムの曲が、かかり始める。


(震える程に…掴みたいものがあった…でも、それは…僕には…掴めやしないから)


真っ暗闇の中で、周りの人のすすり泣く声が聞こえる。明るくなって、私と龍ちゃんは立ち上がった。


「めっちゃ、よかったな」


「うん、泣いた」


「俺も泣いたわ」


「しんの作品って、私達夫婦にはガツンと刺さるね」


「うん、わかる」


ゴミ箱にポップコーンや飲み物のゴミを龍ちゃんは捨てている。

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