大好きな家

私は、家について玄関の鍵を開ける。玄関に入るとすぐに龍ちゃんが好きな森の香りがする。


「はぁー!我が家」


息を吸う度に、大好きな家の香りで安心感が広がる。


「ホッとする」


私は、玄関に座り込んだ。


私は、治療していた時にしていた想像をする。龍ちゃんと赤ちゃんを抱いた私が、公園から帰ってくる。


「もう、大変だったねー。そう、急な雨に濡れちゃたの!龍ちゃんは、バタバタ忙しくしながらベビーカーを畳んでる。ママ、体冷えちゃうよとか言って!タオル持ってくるからって言って、龍ちゃんが洗面所に急いで行ってね!」


話し出したら、涙が止まらなくなってきた。


「ほらー、ママ。赤ちゃん。風邪ひいちゃうからねーとか話してタオル差し出してくれるの」


涙で視界が、どんどん滲んでいく。


「ほらー、早く上がらないととか言って…」


私は、膝を抱えて泣く。


「龍ちゃん、赤ちゃん、赤ちゃん、欲しいよー」


ブー、ブー、ブー


何?


「はい」


鞄から手探りで、スマホを探して画面を見ずに通話した。


『凛、起きてた?』


「うん」


電話を掛けてきたのは、龍ちゃんだった!


『あのさー、悪いんだけど!俺の机にさー、紙忘れてないかな?』


「ちょっと待って」


私は、玄関からリビングに入った。それで、リビングの角にある龍ちゃんの机を見に行く。


『凛、泣いてた?』


「えっ、何で?」


『あっ、嫌。鼻声だから…。風邪ではないよなーって思って』


「泣いてないよ!ちょっと昨日寒かったのかも」


『エアコン調節しなよ』


「うん!あっ、あった!これかな?」


『悪い、写真送って欲しい』


「うん」


『文章わかればいいからさ!ショートメールでお願い』


「わかった」


『凛、浮気してもいいけど!バレないようにな!』


って笑って言ってきた。


「誰に、バレないように…」


『俺や近所や母さん!バレないなら、してたらいいよ!』


「それって、私を試してる?」



『さぁー?どうかな?でも、凛が辛くて悲しくて逃げたいって思う気持ちがあって!そうしなくちゃ、俺と今は向き合えないって言うなら!仕方ないって思うから』


「龍ちゃん……」


『夫婦なんて、他人から見たらわかんない事だらけだろ?どれが、正解なんて決まってないんだから!俺達は、俺達の答えを見つけるしかないだろ?それが、他人から見たら間違ってたってさ』


【センパーイ、お待たせしました】


『悪い、じゃあ!写真よろしく!気をつけろよ!戸締まりちゃんとして』


「わかった、ありがとう。龍ちゃんも気をつけて」


『ありがとう』


そう言って電話は、切れた。


カシャッ…。私は、写真を撮って龍ちゃんに送信した。

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