凛の話6

別れの朝

私は、拓夢と駅前で別れた。寂しい気持ちは、あったけれど…。私にとって、龍ちゃんと過ごすあの家は特別だから…。


切符を買って、改札を抜ける。駅のホームで、電車を待っていた。


ブー、ブー、ブー


「はい」


『もしもし、凛ちゃん!元気にしてる?』


「はい」


『龍が、なかなか来ないからねー。凛ちゃんとも会えないから…。それでね、掛けちゃった。忙しかった?』


「大丈夫です」


『なら、よかったわ』


電話を掛けてきたのは、龍ちゃんのお義母さんだった。お義母さんは、楽しそうに話してる。


『それでね、龍とまたきてよ』


一通りお義母さんは、自分の言いたい事を話せたらしい。


「はい」


『あれ、龍はいなかったりするの?』


どうやら、私の「はい」に元気がないのを気づいたようだった。


「はい!今、龍次郎さんは出張です」


『そうなの、寂しいわね!帰ってきたら、来れる?』


「はい!お義母さんの所には、龍次郎さんが帰ってきたら伺います。」


『嬉しいわ!凛ちゃん。私は、凛ちゃんの笑顔を見るのが好きなのよ!龍とは、うまくやってる?二人で生きていくのは大変でしょ?』


「そうですね!はい!仲良くやっています。」


『それなら、よかったわ!心配だったのよ!何かあったら、すぐ連絡してね!後、龍が帰ってきたら会いましょうね』


「はい、また連絡します」


プー、プー。龍ちゃんのお義母さんは、あれから「孫はまだ?」と口に出さなくなった。


ガタン、ガタン…


電車がやってきて、私は乗り込んだ。


化学流産ってよくわからない事を言われた数日後、龍ちゃんはお義母さんに孫の話をされた。


「もう、いい加減!ほっといてくれよ!俺には、俺の人生があるんだ!俺の生き方に口出しすんなよ」


そう言って、お茶の湯のみをガンっと怒ってテーブルに置いた。


孫を見せられない事に苦しめられてるのを知っていた。私は、駅を降りる。改札を抜けて、歩き出す。


例えば、私達夫婦がドラマや映画や小説やアニメの主人公なら…。ハッピーエンドは、だいたい約束されていて!40歳を目前に悲願の妊娠なんて話しになるのだろう。


でも、現実は違う。どう頑張っても私は自力で排卵を起こせる体ではない。お医者さんも、そう言った「皆月さんの場合、自然に妊娠出来る可能性は難しいと思って下さい」この【難しい】って言葉が、重要なんだよ!【難しい】と言われたら、もしかしたら出来るかもしれないって淡い期待をさせるじゃない。それに、【自然に】とつけられたら治療すればいいのねって安易に思わせてくれるじゃない。

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