あの日のホテル…

「楽しかった?」


「うん、凄く」


「赤ちゃんの事、忘れられた?」


「忘れてた!すっごい、アオハルだった」


「ハハハ、無理しなくていいよ」


「本当だよ!本当にアオハルだった」


「フッ、ハハハ。それなら、よかったよ」


そう言って、拓夢は笑ってくれる。


「拓夢」


「何?」


「震え止まってよかったね」


「そうだな!あいつ等といると自分に戻れた」


「それなら、よかった」


「なあ、凛」


「何?」


「後で、話す」


「そっか!」


「何か、買ってこうか!何、食べたい」


「うーん、牛丼が手軽?」


「確かに!飲み物は?」


「適当でいいよ」


私と拓夢は、牛丼を買ってコンビニで飲み物を買った。そして、ホテルに行く。


「まさか、ここに泊まるとはね」


「確かにね」


時刻は、18時を過ぎた所だった。


「このまま入って宿泊しよう」


「高くない?」


「別にいいよ!俺は、凛といたいから」


そう言って、何の迷いもなく拓夢は、ホテルに入っていく。凛君との出来事があったあの日…。拓夢は、この場所に私を連れてこようとしてくれた。でも、料金が気になったり、人に見られたくなかった私は拓夢の家がいいと断った。だから、独身の拓夢が自由で羨ましかった。


部屋に入ると、テーブルの上に牛丼を置いた。


「飲み物冷やしとこうか」


「うん」


飲み物を冷やしながら、拓夢は、私に話しかける。


「あのさ、凛」


「何?」


「俺、こういう関係じゃなくても凛と一緒にいれる方法見つけるから」


「うん」


「だから、凛は何も気にしないでよ」


「わかった」


「お腹すいたな」


「うん」


「手洗ったら食べようか」


「うん」


私と拓夢は、洗面所に行って手を洗った。自分が、不倫をするなんて思わなかった。でも、こうやってると何もかも忘れられて楽だった。このまま、流れに流され…。私は、クラゲのように漂っていたい。


「泣かないで」


私は、拓夢に抱き締められる。


「ごめんね」


「どうしたの?」


「私の価値ってないんだなーって思っちゃっただけ」


「そんな事ない」


「そんな事あるよ」


拓夢は、私の両手を握りしめる。


「凛が思う、価値って何?」


「若さもない」


「うん」


「赤ちゃんも作れない」


「うん」


「だから、価値がないの」


「それだけで、価値がないって決めつけるわけ?」


私は、拓夢の言葉に泣きながら怒った。


「拓夢だって、セックスが出来なくなったら私なんていらないよ!見た目が、こうじゃなきゃ!私なんかいらなかったでしょ」


拓夢の手を振り払おうとしたら、抱き締められた。


「俺にとって凛は、見た目とか関係ないよ。セックスだって、なくなったっていい。だって、あの日凛が俺を救ってくれた事はどうやったって消えないんだ。確かに、凛は綺麗だよ!だけど、綺麗だけで俺は凛を選んだわけじゃない」


拓夢の言葉に涙が止められなかった。私は、何て幼稚なんだと思った。39歳にもなって、一回りしたの子に八つ当たりなんかして…。

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