わかってても、俺は…【カクヨム版】

プルルルー


何度も響く音を聞いてた。だけど、凛は出なかった。わかっていた。凛が出ない事なんて…。わかってるのに、悲しくなって…。キッチンに座り込んで、頭を抱えて泣いた。


ブー、ブー


「はい」


『ごめんね。今、夫が疲れて寝たから』


「休みだったの?」


『うん、明日から出張だから…。どうしたの?』


「愛さなくていいから、この先も仲良くしてて」


『拓夢、どうしたの?』


「お願いだから…。俺」


ガタン……。


俺は、顔をあげてスマホを落とした。


「拓夢、誰と話してるの?」


「美沙」


「誰と話してるの?」


「と、友達だよ」


「どんな友達?」


「こ、高校の時の先輩が

悩みがあるってかかってきたんだ」


「へー」


俺は、慌ててスマホを取って切った。


「もう、終わったから!大丈夫」


電源を落とした。


「そう」


「電池、丁度なくなったから充電するわ」


「拓夢」


「な、何?」


美沙は、俺に近づいてくる。


「明日花って女みたいな奴がいたら、許さないから」


その言葉に、心臓がズキズキ痛む。


「どういう意味?」


「美沙は、体が傷ついたんだよ!お父さんとお母さんにも怒られたんだよ!わかるよね?拓夢」


意味がわからなくて、怖くて堪らない。足が震えそうになるのを感じるのは、あの時と美沙が同じ目をしてるからだ…。


「拓夢、もっかい!美沙、拓夢が好きな所。全部知ってるよ」


そう言って、スマホをテーブルの上に置かれて引っ張られていく。


「拓夢」


ベッドに横にされる。体は快感に飲み込まれようとしてる。これを昔の俺なら、愛だって勘違いしてただろう…。でも、俺は違うってわかってる。ただ、体が気持ちいいだけだ。


「こうされるの好きでしょ?」


「うん」


あのスマホの履歴を見られたらどうしよう?掛けられたら、どうしよう?俺の頭の中をしめてるのは、凛だ。


「集中して、拓夢」


「してる」


頭の中が痺れない。うまく真っ白になっていかない。それでも、俺のは頑張ってくれてる。体が満たされても何にも意味ないんだよ!美沙…。

俺は、哀れみで美沙を見ようとするから目を閉じる。


【拓夢……】


頭の中に凛が浮かび上がった。


「拓夢、気持ちいい?」


「うん」


それをすれば、自分のものに出来るとしたら…。それは、10代までだ!大人は、そんな簡単になどいかない。快楽と愛情がセットで動いていない。俺は、もう子供じゃない。愛がなくても出来るようになってしまったんだ。


「拓夢、嬉しい。こんなになって」


「うん」


俺は、大人になった。口から出任せを並べて話せるようになってる。

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