まだ、時間ある?

「もう、帰る?」


俺の言葉に凛は、時計を見つめる。


「もう少ししたら、帰るね!夫が、帰ってくるから」


「わかった」


「凛、料理上手?」


「普通じゃない?」


「旦那さんは?」


「褒めてくれる」


「じゃあ、今度作ってよ!お弁当」


「食べたいの?」


「食べたい」


「いいよ」


そう言って、凛は笑ってくれる。


「凛」


「何?」


「子供がいなくて出来る事、俺が探してあげるからな」


「拓夢、無いよ!そんなの…」


「あるよ、絶対!俺が見つけてやるから」


俺は、凛を見つめる。


「この先、凛をとんでもなく傷つけるやつがいたら俺が許さないから」


「何よ、それ」


「俺が、凛を守るって話」


凛は、そう言ったら泣いていた。


「雪乃って仲がいい友達がいてね!会うのは、もう雪乃だけになったの」


「うん」


「他の子は、snsだけの繋がりになっちゃったんだけどね」


「うん」


「雪乃は、治療して妊娠したの。だから、私もしなよって!私、断わられたんだよ。だけど、言えなくてね」


「うん」


「あっち側に行きたかった。他の人は、こっち側もあっち側も知ってるでしょ。だけど、私はあっち側を知らないの」


俺は、凛の涙を拭う事しか出来なかった。


「治療はね、妊娠しない人にとっては、スタートラインに立つ事…。私は、神様にスタートラインにも立つなって言われちゃった。まだ、何にも進んでなくて初歩だった。でもね、卵子が大きくなるスピードも遅いし…。副作用考えたら無理なんだって!先に進んだら、もっとキツイ薬が出てくるから、ここでそんな状態なら無理だって言われたの。拓夢、私の体やっぱりポンコツだよね」


「凛、そんな事ないよ」


「副作用って、認めたくなくて必死で薬飲んだら有り得ないぐらいお腹痛くて死ぬかと思った。うまくいかないね…私。何もうまくいかない…。何も残せない…。何をしてるかわからなくなるんだ」


「凛、歌ってみ」


「えっ?」


「好きな歌、歌ってみ」


「何で?突然」


「カラオケ行ったけど歌ってなかったから」


「じゃあ、いくよ!」


「うん」


「失った昨日に♪」


「知ってる、それ!ARISAだ」


「うん」


俺は、凛と一緒に歌う。


『捨てたはずの想いが一つ♪デタラメだらけのピースを繋ぎ合わしていく♪』


凛は、涙を拭ってる。


「うまいね」


俺は、拍手をしていた。


「お世辞だね」


「違うよ!本当に上手だったよ。凛、俺が歌作ってあげようか?」


「えっ?」


「何も残せないって思ってるなら、歌作ってあげるよ」


「音痴だよ」


「関係ない!音痴でもなんでも、Bチューブに投稿すればいいんだよ!作ってあげるから、凛」


凛は、目を輝かせて俺を見つめてる。涙で濡れてるだけじゃない。キラキラと輝いてる。


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