報告

「あのね、龍ちゃん」


「何?」


「今日、病院行ったらね」


「うん」


「やっぱり、副作用だったみたいで!」


「うん」


「血圧上昇や吐き気とか頭痛とか…。緩い薬でなるなら、これ以上は出来ませんって言われちゃった」


「それって、自然妊娠は?」


「確率は、ほとんどゼロだと思うよ」


龍ちゃんは、私をジッーと見つめた。


「わかった。今まで、お疲れ様でした」


「諦められるの?」


「諦められはしないよ。でも、無理しなくていいよ。凛の体が一番大切だから」


涙が、ボロボロと流れてくる。


「何で、泣くの?」


私達は、幾度となく喧嘩をした。幾度となくお互いを罵倒した。その度に、追い詰められて泣いて頭が狂ってしまいそうな日々を沢山過ごした。


「ごめんね」


「ううん、大丈夫」


「あのね、雪乃が妊娠したんだって、治療で…」


私は、言わなくていいのに、いつも言葉にしてしまう。


「そっか」


「私の体がポンコツじゃなかったら、治療続けられたのに、ごめんね」


「凛、そんな風に自分を責めないでいいから」


「本当にごめんね」


「でも、限りなくゼロに近いってだけで、ゼロじゃないかもしれないだろ?」


「タイミングとるつもり?」


「やってみようよ!もしかしたらさ」


「わかった!龍ちゃんがそうしたいなら」


「うん」


妊活をしなければ、私達夫婦はセックスレスだ。タイミングの為に、セックスをし…。妊娠する為に、中に出す。そうやって、肌を重ねていくだけだった。


途中からは、義務みたいになって、気持ちはどんどん冷めていった。

挿入時の痛みは、強さを増して…。私は、次第に濡れなくなっていた。それから、やっと解放されるのが嬉しいとかそんな気持ちはなかった。


だって、それがなくなったら夫婦でいる意味がわからなくなってしまうから…。子供を授かる行為がセックスであると言うのならば、私は何の為にセックスをするのでしょうか?


子を産むのが、女の役割と言うのならば、私は何の為に女としての性を与えられたのでしょうか?


いっそ、性別なんてなければよかったんだ。


「凛、大丈夫?」


「えっ、あっ!ごめん」


「ううん」


「食べ終わったらしようか?」


「今日?」


龍ちゃんは、驚いた顔をした。


「うん、今日」


「いいよ、そうしたいなら」


龍ちゃんは、いつでもそう言ってくれた。凛がしたいなら、凛が望むなら…。


それが、私にはどこか他人行儀に思えていた。


私だけが頑張ってて、私だけが必死で、それがずっと空しかった。暫くしてタイムリミットがある男女の考え方の違いなんだと理解した。そこからは、空しさは消えた。これは、出すだけの男と生命を形作る女の違いなのかも知れないと思ったからだ。


そんな事を考えてる間に、いつの間にかご飯は食べ終わっていた。

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