凛の最初の話【1】

再会【修正済】

ヤバイ、泣きそう。


私は、駅の改札口を抜けてホームのベンチに腰かけて電車が来るのを待っている。


「あのー」


「えっ?」


隣に座った人が、突然ハンカチを差し出してきた。


「な、何ですか?」


「声かけるタイミングなくしちゃって……。これ、落としたから」


その言葉に、顔を上げるとさっきの人がいる。


「あっ!!!」


差し出されたのは、私の鞄についていた小さな赤ちゃんのキーホルダーで、私の大好きなキャラクター。


「わざわざ、届けていただいてありがとうございます」


私は、その人に頭を下げる。どうやら、さっきぶつかった拍子にちぎれていたらしい。


「いや!気にしないで……。全く振り返ってくれないから……。ここまで、来ちゃっただけで」


その人は照れくさそうに笑っている。


「あの、お礼させて下さい。珈琲でもおごります」


ベンチから立ち上がろうとした私の腕をその人は掴む。


「その前に、涙、拭いたら?」


私は、立ち上がるのをやめた。


「あっ、すみません」


「謝らないでいいから」


私は、その人が差し出しているハンカチを借りる。


そして、涙を拭きながら自己紹介をしていた。


「私の名前は、皆月凛(みなづきりん)です」


「俺は、星村拓夢(ほしむらたくむ)」


「宜しくお願いします」


「よろしく」


その人が差し出してきた手を握りしめる。


長くて綺麗な指先だった。


これが、拓夢と私の出会い。


「あの、食事とかお茶とか何かお礼させて下さい」


「いいよ!わざわざ」


「いえ、本当に!させて下さい。お願いします」


「わかった」


拓夢は、私の言葉に笑ってから、連絡先を教えてくれた。


ガタンガタン……


電車が、やってきた。


「乗ります?」


「うん」


私達は、電車に乗り込んで、並んで座る。爽やかな拓夢の香水が、いつの間にか私の涙を止めてくれているのがわかる。


「俺は、次で、降りるから」


「はい」


「明日、また会おうよ」


「はい、是非」


「じゃあ、お店は、こっちが決めても?」


「勿論です」


「わかった」


拓夢は、次の駅で降りて行った。


人生は、どうなるかなんてわからない。


私は、降りていった拓夢を見つめていた。


そして、その駅から二駅先で、私も降りる。


改札口を抜けて歩き出す。


いつものスーパーに寄った。


今日は、何食べようかな?


あっ!私の癒しさん、発見。


スーパーにいる、女の子みたいな男の子!年齢的に自分の子供でもおかしくないであろう高校生。いつもは、夜にいるのだけれど……。

ただいま、夏休み中なので昼間もいるようで……。


私は、彼を視界にいれながら買い物をする。あんな可愛らしい男の子を産んで育てられたら幸せなのに……。

いつもと違って、今日は涙が出そうになるから、さっさとレジに向かった。今日は、見るのをやめよう。いつもなら、嬉しい行為だけれど、今日に限っては、苦痛だった。


買い物を済ませて、私は家に帰る。家の鍵を開けて中に入って玄関に座り込んだ。


赤ちゃんを産めない人生なんていらなかった。赤ちゃんを授かれない人生なんていらない。私は、赤ちゃんが欲しかった。どんな事をしてでも、欲しかった……。


気づくと私は、拓夢に借りたハンカチでまた涙を拭っていた。


切り替えなきゃ……。

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