死神

 スキル〔成長操作〕で青年の姿になったレイジ。


 彼は口元を三日月に歪めて、漆黒の巨大なカマキリを睨みつける。


 


「さぁ、調理開始だ」




 威圧的な低い声を発したレイジは、スーツに魔力を流し込む。


 するとスーツの表面に銀色のラインが浮かび上がる。


 それを目にしたカマキリ型魔獣は危険を察知し、逃げようとした。


 しかし、レイジは許さない。




「逃がすかよ」




 彼は地面が陥没するほど強く踏み込み、突撃。


 目に留まらない速さで修羅カマキリとの距離を詰める。


 僅か数秒で魔獣の懐に入ったレイジは拳を構える。




「アダマンタイトは魔力を流し込むと身体能力を爆発的に強化する。まぁ、虫に言っても分からないか」 




 嘲るように鼻で笑ったレイジは拳を放った。


 彼の殴打が魔獣の胴体に直撃した瞬間、鐘のような轟音が鳴り響く。


 


「ギシャ!?」




 苦痛の悲鳴を上げた修羅カマキリは吹き飛び、大樹に激突する。


 口から大量の血を吐き出すLV4の魔獣は地面に崩れ落ちた。


 勝負はついたと思っていたその時、




「ギシャァァァァァァァァァァァァ!!」




 修羅カマキリは雄叫びを上げて立ち上がった。


 血走った目をレイジに向け、殺意込めた大鎌を振り下ろす。


 迫りくる斬撃をレイジは―――片手で受け止めた。




「!?」


「驚いたか?驚くよな~自慢の鎌の攻撃を一人の人間に止められたんだから……なぁ?」




 目を細めて殺気を放つレイジは、握力を強めて鎌を粉砕した。


 甲高い音が鳴り響き、修羅カマキリは驚愕して後退する。恐怖に支配されていく。




「まだこれで終わりじゃないぞ?スキル〔暴君〕」




 新たなスキルを発動したレイジの全身の筋肉が、突然膨れ上がった。




「このスキルは無属性適正LVが1につき、肉体強度と身体能力を十倍にする。俺の適正LV10。さて、今の俺の肉体強度と身体能力はどれくらい倍になったでしょうか?」


「ギ、ギシャァァァァァァァァァァァァ!」




 雄叫びを上げて恐怖を誤魔化した修羅カマキリは、全ての鎌を振り下ろした。


 無数の死の刃がレイジに襲い掛かる。


 だが、彼は冷静だった。




「答えは……百倍だ」




 刹那、レイジの音速を超えた速度で拳と蹴りを放つ。


 怒涛の連撃が修羅カマキリの全ての鎌を粉砕する。


 なにが起きたか分からず、硬直してしまうカマキリ型魔獣。


 そんな敵にレイジは死の宣告をする。




「これで最後だ。スキル〔絶鎌〕」




 スキル名を述べたレイジの目の前に、禍々しい黒い大鎌が出現。


 それを掴み取った彼は、魔獣を殺すために鎌を構える。




「切り刻んでやるよ」




 レイジは大鎌を高速回転させ、修羅カマキリの腕の関節を切断する。


 今まで感じたことがない激痛に襲われ、カマキリ型魔獣は悲鳴を上げる。




「ギシャァァァァァァァァァァァァ!?」


「知っているか?甲殻に覆われた生物は関節が弱いんだよ。お前みたいにな」




 漆黒の大鎌をレイジは振り回し、修羅カマキリの全ての関節を切断していく。


 鮮血が飛び散り、魔獣の断末魔が響き渡る。


 残ったのは頭と胴体のみ。


 レイジは大鎌を上段に構えて魔力を流し込む。




「冥土の土産に教えてやる。スキル〔絶鎌〕は魔力を流せば流すほど、切れ味が上がる」




 鎌の刃に白銀のオーラが発生。


 そのオーラはレイジの魔力が具現化したもの。


 月のように輝く大鎌は周囲を照らす。




「消えろ」




 限界まで魔力を流し込んだ大鎌をレイジは振り下ろす。


 鎌の刃から放たれた銀色の斬撃は、修羅カマキリを頭から両断した。


 カマキリ型魔獣の身体は左右に分かれ、赤い血だまりを作る。




「毛ガニを調理するのと比べたら、簡単だったな」




 大鎌を肩に掛けたレイジは後ろに振り返る。


 


「さて……次はお前らだな」




 凶悪な笑みを浮かべて、レイジは呟いた。


 彼の視線の先にいたのは、巨大な魔獣の群れだった。


 赤い目を輝かせ、涎を垂らし、唸り声を上げている。




「ずいぶんと多いな。なら……スキル〔分身〕!」




 スキルを発動したレイジの背後から、無数の人影が現れる。


 その人影は、漆黒の大鎌を握りしめた銀髪の青年—――光闇レイジだった。


 同じ出で立ちの人間が複数出現したことに、魔獣達は驚愕する。




「どうだ?すごいだろ」


「スキル〔分身〕は無属性適正LVが1につき、十人の分身を生み出せる」


「俺の適正LVは10。つまり?」


「百人だ」


「ヤバいだろ?」


「それな」




 レイジの分身達が喋っている光景を見ていた本体のレイジは苦笑する。




(自分のクローンに出会ったSF主人公もこんな気持ちなのかな?)




 なんか気持ち悪いと思いながら、レイジは魔獣達を睨みつける。


 得物を構え、彼は大声で叫んだ。




「行くぞ俺達!」


『おう!』




 レイジ達は魔獣達に向かって駆け出した。




『グアァァァァァァァァァァァァァァ!!』




 魔獣達は雄叫びを上げて、迫りくるレイジ達に襲い掛かった。


 人の姿をした化物と獣の姿をした化物がぶつかり合う。




 ◁◆◇◆◇◆◇◆▷




 そこから始まったのは、化物同士の殺し合いだった。


 鋭い爪や牙で襲い掛かる魔獣達を、レイジ達は大鎌で切り裂く。 


 鮮血が飛び散り、魔獣の悲鳴が響き渡る。


 白い肌と綺麗な銀髪を返り血で赤く染め、レイジは次々と命を奪う。


 そんな彼の姿は、まさに死神のよう。


 レイジは凶悪な笑みを浮かべて、大鎌を振り回した。




「さぁ、俺を殺せるもんなら、殺してみろ!」

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