アイテム屋のAI

 今日もレイジは、己を強くするために魔獣と戦っていた。


 冷たい風が流れる空の上を彼はスキル〔神兎〕の力で駆けながら、体長三十メートルの黒い鷹に接近する。




 魔獣LV3ーーーキラーホーク。




 大気を操り、超高速飛行をする鳥型魔獣。


 近付いてくる銀髪少年に向けて、咆哮を上げる。




「キュアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!!」




 耳を押さえたくなるような鳴き声。


 だが、レイジは恐れることなく立ち向かう。




「スキル〔神金属生成“ミスリル”〕」




 彼が左右に手を翳すと、空中に白銀の金属が出現した。


 それをスキル〔形状変化〕で、薄く大きな包丁に変える。




「切り刻んでやる」


 


 深紅の瞳を輝かせ、スキル〔重力操作〕で二本の巨大包丁を操る。


 大きな翼を羽ばたかせるキラーホークに、レイジは斬りかかった。


 二つの白銀の刃が胴体を裂こうとした瞬間、キラーホークは急加速。レイジの攻撃を紙一重で回避した。




「知ってたけど早すぎだろ!」




 舌打ちしたレイジは、空中を蹴って獲物を追いかける。


 直後、キラーホークは急旋回してレイジに突撃。


 足の鋭い爪を構え、雄叫びを上げる。




「キュアアアアアアアアアアアアー!」




 黒い大鷹は少年を喰らために全力を出す。


 大気を操り、加速する。


 目に留まらない速度で、レイジに襲い掛かった。


 しかし、




「俺には効かない」




 目を細めたレイジは、手を翳す。




「スキル〔自然操作〕」




 翳していた手を握りしめると、キラーホークの周囲が真空状態になった。呼吸が出来ず、くちばしから泡を噴き出す。


 動きを止めた鷹型魔獣に、少年は容赦なく攻撃を仕掛けた。


 二つの白銀の包丁でキラーホークの身体を細かく斬り裂く。


 鮮血が飛び散り、魔獣の断末魔が響き渡る。


 それを顔色一つ変えず、レイジは眺めていた。




「だいぶ、空中戦には慣れてきたな」




 ここ数日間、レイジは母から貰ったスキル〔神兎〕の力で、空中での戦闘訓練を行っていた。


 結果は良好。


 今では空を飛び回る魔獣を倒すぐらいまで成長した。


 だが、レイジは素直に喜べなかった。




『来ないで!化物!』


『怖い……』




 レイジに怯える姉と妹の姿が、脳裏に自然と浮かび上がる。


 


「一週間以上も経つのに、まだ気にしているんだな。俺」




 ポツリと呟き、レイジは顔を上げる。


 視界に映るのは、禍々しい漆黒の雲—――邪雲。


 太陽や月を見ることができない地球。


 レイジはこの世界とラスボスに転生させた運命に宣言する。




「俺はこれぐらいで、挫けたりしない。絶対に否定してやる」




 深紅の瞳を強く輝かせたレイジ。


 彼の覚悟と信念は固く、揺らぐことはない。


 例え、家族に化物と言われても。




◁◆◇◆◇◆◇◆▷




 魔獣討伐を終えたレイジは、家から離れた街の中を歩いていた。


 街は活気であふれており、人間と女神が楽しく話していた。


 


「ここは相変わらず楽しそうだ」




 街の様子を見て、レイジは微笑む。


 この世界は邪雲に覆われており、いつも暗い。


 だが、人々は明るく生きている。


 それが、人間の強さだ。




(まぁ、女神の存在も大きいが)




 そう思いながら、横目で女神達に視線を向ける。


 女神との契約は、人間に強い力を与える。


 巨大な岩を素手で砕く力やあらゆる病気を治療する力など。


 契約する女神によって得られる力は違う。




(だけど、女神によって人生を変えられてしまうこともある)




 人間には悪人や善人がいるように、女神にも悪人や善人が存在する。


 今まで家族に慕われていた優しい少女が、悪い女神と契約して犯罪者になってしまうことがある。


 逆に、今まで家族に迷惑かけてきた悪ガキだった少年が、良い女神と契約してから人々に尊敬される人間に成長したということもある。


 レイジが契約する女神は、ロキ。神界の大悪党にして大罪人。


 ロキと契約してしまえば、世界を滅ぼす化物になってしまう。




 そんなの―――絶対に嫌だ。




 将来、別の女神と契約するためにも強くならなければならない。


 そのためにも、レイジはある場所に向かった。


 数分後、到着したのはコンビニのような小さな建物。看板には『アイテム屋』と書かれていた。


 自動ドアが開き、中に入る。


 アイテム屋の中には、なにもなかった。


 白い壁に覆われた空間のみ。


 レイジが一歩前に進むと、目の前にタブレット端末が突然現れた。


 だが、彼は驚かなかった。


 タブレット端末は女性の声で、レイジに話しかける。




『いらっしゃいませ。ご用件はなんでしょうか?』


「魔獣の素材の買い取り。そして買い取ったお金で魔導書の購入」


『承りました。では、こちらに魔獣の素材を置いてください』




 タブレット端末の横に白い魔法陣が浮かび上がる。




「スキル〔格納空間アイテムボックス取出テイクアウト”〕」




 レイジがスキルを発動すると、空中に爪や牙や毛皮に鱗、そして魔力を宿した光る石—――魔石が大量に出現した。


 スキル〔格納空間〕。特殊な空間に生物以外の物を収納したり、任意の場所に転送することができる能力。


 レイジはこれまで倒してきた魔獣から素材を回収してきた。


 それを白い魔法陣の上に置くと、一瞬で跡形もなく姿を消した。


 タブレット端末の画面に、数字が表示される。




『買取価格、二千万です』


「多くない!?」




 予想外の大金を手に入れたレイジは目を大きく見開く。


 確かにアニメでも魔獣の素材はあらゆるもの使えるため、高く売れるのは知っていた。


 だが、ここまで売れるとはレイジは思っていなかった。




『いえ、適性価格です』


「そ、そうか」


『何か問題でもありますか?』


「いや、ない」


『……なら黙ってろよ。人間風情が』


「おい、ちっさい声で今なんて言った?」


『いえ、なにも。それより魔導書は何しますか?』




 誤魔化すように話題を変えるタブレット端末。


 眉を痙攣させながら、レイジは考える。




(アニメのレイジは多くの命を奪うために攻撃系スキルを買いまくっていた。だけど俺が別の女神と契約するためには攻撃系スキルばかりではダメだ)




 契約する女神は人間の実力と才能に影響する。それは持っているスキルにも同じく影響する。




(となると、俺が選ぶのは決まっている)




 レイジは指を立てながら、タブレット端末に言う。




「俺が欲しいスキルは防御系、成長補助系、回復系、強化系の四つ」


『属性はどうしますか?』


「すべて頼む」


『承知しました……これは良いカモが来たな』


「それはどういう意味だコラ」


『いえ、別に』




 タブレット端末の画面に無数の魔導書が浮かび上がる。


 魔導書の写真の横には、スキル名に効果と値段が書かれていた。


 レイジは画面に映っている魔導書を一つ一つ押していく。




「身体能力・肉体強度・技術能力・戦闘能力の成長補助スキルは必須。自動回復に体力と魔力の回復速度上昇スキルも買うと。ダメージ減少と毒無効もいいね。異常状態無効もあるのか~、ってうわぁ!こんなスキルもあるの!?」




 レイジは楽しそうに魔導書を買っていく。


 十分後、気に入った魔導書を全て選択を終えると、タブレット端末が喋り出す。




『まだ三百万残っていますが?』


「いや、それは現金に換えてくれ」


『こちらの魔導書はどうですか?』


「いや、大丈夫だ」


『こちらなどオススメですよ?』


「もう十分だ」


『ここでは回復薬や魔道具も販売しております』


「そっちはいい。それよりお金を」


『いいから金を使えよ!』


「逆ギレ!?」




 突然怒り出したタブレットに驚くレイジ。


 アイテム屋は魔獣の素材を換金したり、色々なアイテムを買うことが出来る。


 それを担当するのが、タブレット型AI。


 アニメでは機械的に会話するのだが、レイジの目の前にいるAIは個性的だった。




『お願いだから買って!』


「なんでだよ!わがまま言うなよ!」


『ここは魔導騎士が少ないから買う人がいないんです。このままでは私は廃棄されちゃうんですよ』


「……まぁ、他のところと比べたら魔獣の出現率、低いからな」


『お願いします~AIを助けると思って!』


「分かったから、顔に画面を押し付けるな鬱陶しい!」




 レイジは深い溜息を吐いた。


 面倒くさいAIだなと思いながら、タブレット端末を操作する。




「え~と、とりあえず感知系スキル〔気配感知〕に〔魔力感知〕、〔危機感知〕だろ。あとは運が上がるスキル〔幸運〕。あとは~どうするかな」


『こちらは如何でしょうか?』




 悩んでいると、タブレット端末の画面に三冊の魔導書が映し出された。


 どれも普通の魔導書より値段が高い。


 しかし、能力は非常に良かった。




『気に入りましたか?』


「ああ、これも買うがひとつ言わせてくれ」


『なんでしょう?』


「お前……三百万無くなるようにしただろ?全部買ったら一円も残らないぞ?」


『お買い上げありがとうございました』


「おい!無視するな!」




 怒鳴り声を上げた時には、レイジの目の前に積み重なった魔導書が現れた。


 なに言っても無駄だと察したレイジは、スキルを発動する。




「スキル〔格納空間“収納ストレージ”〕」




 次の瞬間、魔導書は跡形もなく消えた。


 全ての魔導書をスキル〔格納空間〕の中に収納したのだ。


 


「じゃあ、俺は帰るから」


『待ってください』




 帰ろうとすると、タブレット端末が声を上げた。




「なんだ?」


『また……来てくれますか?』




 寂しそうにタブレット端末は問い掛けた。


 この田舎町で初めて買いに来てくれた人が、レイジだったんだろう。


 察したレイジは、微笑みを浮かべて答える。




「ああ、また来る」


『ええ、また来てください』




 タブレット端末は嬉しそうに返事を返した。




『そういえば、お名前は?』


「光闇レイジだ」


『ダサいですね』


「スクラップにされたいの!?」

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