魔導書
「はぁ……化物か」
家に帰ってきたレイジは夕食とお風呂を終え、ベットの上で仰向けに倒れていた。
彼の行動で命を失うはずだった姉と妹は死を免れた。
スキル〔
この力のお陰で、レイジは姉と妹を救うことができた。
しかし、二人から送られたのは、感謝の言葉ではない。
(だけど仕方がないことだ。目の前で生き物が殺されるのを見てしまっては)
自分に納得させたレイジは、天井に向かって手を伸ばす。
例え家族に化物と呼ばれても、後悔しない。
そしてまた家族が命の危機に襲われたら、必ず救う。
それが俺が決めた道だから。
「絶対に、運命を否定する!」
そのためには、力を付けなければならない。
今後のことを考えていると、扉からノックの音が響いた。
「どうぞ」
声を掛けると、ゆっくりと扉が開く。
部屋の中に入ってきたのは、可愛いクマさんパジャマ姿の愛花だった。
見た目が小学生なせいで、とても似合っている。
だが、自分の母親が子供向けのパジャマを着ているのは、レイジとしては複雑な気持ちだった。
「レイくん。まだ、起きていたんだ」
「うん。どうしたの?」
「ちょっとレイくんに聞きたいことがあってね」
困ったような笑みを浮かべる愛花は、レイジに尋ねた。
「レイくん。……あの時、『慣れた』って言ったよね。それはどういう意味かな?」
「……」
「もしかして、前まで夕陽ちゃんと朝陽ちゃんを虐めていたのと関係あるのかな?」
レイジは無言のまま視線を逸らす。
愛花が言ったことは、間違っていなかった。
誤魔化そうと思ったが、諦めて、全てを話した。
「……実は魔獣から二人を守ったのは、これが初めてじゃないんだ」
「え?」
「これで三回目かな。でも、助ける度に俺は二人から怖がられ、化け物と言われた」
レイジは天井を見上げる。
自分に怯える姉と妹の顔が、自然と頭に浮かんだ。
「それから俺はどうしようもない怒りを覚え、暴れたんだ」
それが、前世の記憶を思い出す前の光闇レイジ。
アニメの設定にはない、裏設定。
(助けたのに化物と怖がられ、性格が歪んでしまった。きっと、アニメの光闇レイジが悪になってしまった原因がこれなんだろう。だけど)
今のレイジは見た目が子供でも中身は大人。しかも前世で過酷な体験を何度も味わった。
これぐらい、大したことは無かった。
だけど、家族に化物と呼ばれるのは、少し……胸が痛い。
その時、愛花はレイジを優しく抱きしめた。
「お母さん?」
「ごめんね……辛かったよね。気付いてあげられなくて、ごめんね」
愛花は謝っていた。心から。
自分の息子がなぜ、暴れるようになったのか。
なぜ、夕陽と朝陽がレイジに怯えていたのか。
なぜ―――、レイジが隠れて泣いてたのか、全てが分かった。
「苦しかったよね……悲しかったよね……」
何度も謝る愛花を、レイジは優しく抱きしめた。
気にしなくていいよ。
お母さんは悪くない。
悪いのは、生まれた時から強い力を持っていたことだから。
強力な力は、恐怖され、差別される。
やがて、周囲を憎み、人を殺す。その中には、家族も含む。
だが、俺は違う。
姉と妹にまた化物だと言われても、俺は折れない。
どれだけ苦しくして、悲しくても、負けるつもりはない。
だから、
「大丈夫だよ。お母さん」
それを聞いて愛花は泣いた。大声、泣き続けた。
◁◆◇◆◇◆◇◆▷
しばらくして、泣き止んだ愛花はレイジにある物を渡す。
「レイくん。少し早いけどサンタさんからのプレゼントだって」
「ありがとう」
(そう言えば、今日は十二月二十三日だったな)
母親から受け取ったのは、リボンが結ばれた分厚い本だった。
それを見て、レイジは驚愕の表情を浮かべる。
「ちょ、これ!」
「きっとレイくんには必要な物だからってサンタさんが」
違う。レイジは中身が大人だからサンタが居ないのは知っている。
愛花が渡してきたのは、見るだけでスキルが手に入る特殊アイテム――
魔導書は高価だ。安くても十万円以上はする。
しかもそれだけではない。
「これ、神聖属性の魔導書だよ!」
「よくわかったね」
「わかるよ!だってこれ銀色だよ!?」
属性には色が存在する。
火属性は赤。水属性は青。風属性は緑。土属性は茶色。闇属性は紫。光属性は黄色。無属性は白。雷属性は金。神聖属性は銀。邪神属性は黒。
女神は髪の色で属性が分かる。
因みに女神リオは髪の色が黄色なので、光属性。
女神アイリスは髪の色が紫なので、闇属性。
レイジが貰った魔導書の色は、銀。つまり神聖属性の力を宿している。
神聖属性スキルの魔導書は他の属性の魔導書より高く、百万円以上はする。
それを五歳も満たないレイジにプレゼントしたのだ。
「でも…これは」
「レイくん……強くなりたいんでしょ?」
「!」
「なんで強くなりたいのか、分からないけど、そんな感じがする。……まるで昔のママのように」
「え?今なんて?」
「なんでもないよ」
愛花はレイジの頬にキスして扉に向かった。
「おやすみ。レイくん……夕陽ちゃんと朝陽ちゃんを助けてくれて、ありがとう」
◁◆◇◆◇◆◇◆▷
部屋に取り残されたレイジは、持っていた魔導書と睨む。
なぜ、愛花がこれを持っていたのか謎だった。
だが、彼女がレイジを想って魔導書をプレゼントを渡したのだ。使わないのは失礼だ。
「よし、開くか」
意を決して、魔導書を開く。
紙には見たことが無い文字が隙間なく書かれていた。
しかし不思議にも、レイジには何が書かれているのかが分かった。
「スキル〔神兎〕。聴覚、脚力、跳躍力を大幅に向上させるスキル。さらに空中を蹴って飛行することが可能。……とんでもないスキルだな」
驚いていると、魔導書が突然粒子へと変換した。
そして粒子はレイジの体内に吸い込まれる。
「アニメと同じく一度魔導書を見ると消滅するのか。どれ、試しにやってみるか。スキル〔神兎〕」
ベットから降りたレイジはスキルを発動し、軽くジャンプした。
直後、天井と頭が激突した。
「ぐほっ!」
ベットの上に落下したレイジは、頭に手を当てて蹲った。
跳躍力が予想以上に強化されたことで、勢いよく天井に頭をぶつけてしまったのだ。
涙目になりながら、レイジは起き上がる。
「いてて。これはしばらく使いこなせるよう、練習だな」
深く溜息を吐くレイジ。
その時、ふと思った。
神聖属性の魔導書を持っていた愛花は何者なのか?
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