3.雪を聞く

 触れると凍てつく。

 ともすれば痛いくらい。

 髪も肌も臓腑も身に纏う衣すら雪で出来ている雪女。

「私は溶けてしまいたい」

 春になったら。

 すべて透明な雫と成れる。

 頬を滑るのは雪だろうか、涙だろうかもう凍てついた肌には理解できない。


 大好きだった母のように自分もと願う。

 ザクザク。

 あと少しで季節が廻る。

 私の使命もあと僅か。


 震える身体を叱咤して人里を目指す。

「あと少し」

 新しい轍が見えた時私は自由になる。

 季節は巡り、新たな時代へと遷ろってく。

 人は怖がるだろうか?

 ほんの少し人間と戯れようか?

 雪だるまと雪うさぎをつくる。

 人の子に見えるよう温泉のすぐそばに。


 近づけば私が溶けてしまうから。

 吐息を吹きかけ細部を作る。

 冷たい息。

 人が凍る雪の国


 雪はだんだんと雨に変わる。

 雪かきする季節から

 子供が外で遊べる季節に。


 なくなる人が増える季節。

 悲しみが増し、海の無常が濃くなる季節。

 ネガティブにもなりやすくなる季節。

 憂鬱を呼ぶ季節

 無価値を感じることも多くなる。

 残酷な冷たい世界。

 暖かい家で見る景色は最高。

 覆い隠してしまった窓からの眺めは白と寒さ。


 雪が作った幻。

 気温が高くなれば露となり消えうせる。

 刹那の妄想と芸術が見せた幻影。

 END


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