8.この世の不思議


 人が生まれる時には、精子と卵子が結合しなければならない。

 人間だけではない哺乳類の原則。

 数え切れないほどの命の原石たち。


 わたしをわたしにした


 その道筋。


 別に私である必要はなかったわけで。


 もっとできのいい人格をつぶして


 私が生まれたわけで……

「生命成り立ちの競争に勝ったのだからそれだけであなたは勝ち組」

 そんな風には思えない。


 初めてこの成り立ちを知った時にはもう

 やりきれない。


 もっと積極的に何でもできたら。


 もっと私はこれをすると

 言い切れるほどの自信に満ちていたら。


 こんな私をつぶして。

 なんでほかの人格ができなかったの?


 もっと優秀な人格なんていくらでもあったはずなのに。


 こんなに私は脆いのに。

 こんな時間消えてしまえばいいのに。


 人生を楽しんでいる人がうらやましい。


 勝って生まれて、来たのだから仕方ない。

 この修行の世界をどう快適にどう成長したか。

 問われているはずだ。


 私は慈悲深く、優しい人間になり続けたい。

 取り柄のない私が願うただ一つのこと。


 END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る