第2話

「はい! いらっしゃー、せっ!」

「ご注文は? はい、チャーハンセット二つ、かしこまりましたーっ!」

「ありがとー、ござしたっ! またお願いしますっ!」

 時刻は18時、高校を後にした俺は制服からユニフォームに着替え、実家のラーメンあかまむしを手伝っている。

 日暮里駅から千駄木方面に歩いて、谷中銀座商店街の中にある小さな店だ。親父と俺、近所のおばちゃんや大学生がせっせと働く。  

 おすすめはチャーハンだ。ラーメンはそんなにおいしくない。お客さんがそうグルメサイトで書いている。常連さんもみんなチャーハンしか頼まない。もはや、チャーハン屋でいいんじゃないかと親父に提案したら、小遣いというバイト代を減らされた。二度と提案しないと決めた。それほど親子はラーメンにこだわっている。マズいが。

「赤間くん、わたし、チャーハンで!」

「私もそれでお願い」

「ユーマ、俺はラーメンにチャレンジするわ。部長も男なら、ラーメンっすよね?」

「いや、僕はギョウザ定食で」

「え?! 部長、チャレンジしましょーよ!」

「ギョウザの胃袋なんだよ。最近、食べてないし」

 部活帰りのテーブル席四人に、キッチンの親父がいう、

「部長さん、ラーメン食べましょうよ。うまいっすよ」

 日焼けした親父は毎日鍋を振っているからか、腕が太くて貫禄がある。

「……じゃあ、ラーメンとギョウザで」

「はい! チャーハン二つ、ラーメン二つ、ギョウザ一つ、ありがとーございやすっ!」

 俺の仕事ぶりを見たいのか、部活全員で食べに来ている。部長以外は一度来たことがある。

「はーい、お待たせしました!」

 満足そうにチャーハンを頬張る女子二人、鶏ガラベースのなんとも言い難い微妙な味わいのラーメンにメガネが曇る部長と、人生修行と割り切って食らいつく同級生の今井テルだ。

「あ! やっべ!」

 高橋先輩が何かを思い出した。店内の注目を浴び、耳を赤くして恥ずかしそうに肩をすぼめる。

「どうしたんですか?」と、俺はきく。

「今日、家で焼肉パーティーだった」

「重大行事じゃないっすか!」

「帰らないと……でも、チャーハンが」

「じゃあ、タッパー貸しますよ、先輩」

「え、ほんと!?」

「来週、部活で帰してくれればいいんで、ちょっと待っててください」

 俺は機転を利かして、タッパーに食べかけのチャーハンを入れ、ビニール袋に入れて高橋先輩に渡した。

「赤間ユウマ、さすがわたしの後輩! みなさん、ではお元気で!」

 足早に去っていく背中に、深田先輩が水で口を直す。

「メグミったら、死亡フラグみたいなセリフ言って……あら?」

 足元のスクールバックを見つけた。

「あの子、忘れちゃったの?」

「あちゃー、先輩やっちったな。ユーマ、ダッシュなら間に合うんじゃね」

「いーわよ、電話で取りに来させれば」

「……」部長はつらそうな表情だ。

「いーや、行ってきますよ」

「そーお? じゃ、アプリで伝えておくわね」

「親父、ちょっと抜けるから」

「おう! 気を付けてな!」

 と、俺はバッグを持って先輩を追いかけた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る