はじめまして、宇宙人さん。
だいふく丸
第1話
「宇宙人ってさ、いると思う?」
いきなり、高橋メグミ先輩が眼光鋭くぶっこんできた。無垢な笑顔がまぶしい。
しかししかし、今は夏休みの企画会議中で、書記の俺はとまどう。
なんて入力すればいいのやら、《高橋:宇宙人の話題》とでも書いておこう。
「いるんじゃないっすか?」
と、ペンを回しながら返す今井テルだ。彼はソフトモヒカンにこだわりがある。いつも美容師と揉めているらしい
「今井君、そう思うよね。じゃあ、この夏休みは宇宙人特集にしよーよ。ちょうどMYTUBEでも投稿ブームが来てますし、そうしましょーよ、遠藤部長」
ノリノリな高橋先輩と違って、西日暮里高校が誇る敏腕編集マン、遠藤マナブ部長のメガネは曇る。
「宇宙人か~、ありきたりだよね~」
「えー、厳しいな」
不満なのか、腕を組む高橋先輩。胸を締め付けるそのポーズ、目のやり場に困ります。むしろ、ありがとうございます!
「宇宙人は……たしか、過去に先輩たちがやってんだよね」
「じゃあ、祭り特集とかどうっすか? 全国各地の祭りを制覇しましょうよ」
「いくらかかるんだよ、今井君」
「そこは校長のポケットマネーでしょうが!」
「スポンサー様にたからないでください!」
我が新聞部の顧問は校長先生だ。学生闘争を経験しているからか、高校生のうちからジャーナリズムを学ぶべきだと、素晴らしい考えをお持ちの方だ。不人気だが。
「祭り巡りか……イイネ♪」
と、高橋先輩は宇宙人を諦めた。
「でしょでしょ、やっぱ夏は祭りっすよ。青森のねぶたに、徳島の阿波踊り、新潟の花火祭りもありますよ。かわいい子と思い出作りに行きましょーよ」
「部の予算では無理です。深田さんからも注意してください」
不満な遠藤部長は会計の深田マナミ先輩に助けを求めた。
深田さんはすらりとした首を左右に振りながら俺たちを見て、部長に提言した。
「JKビジネスについて、特集しませんか?」
いきなりのぶっこみだ。俺は《深田:JKビジネスの話題》と書く。
「JKビジネスってなんすか?」
今井が深掘る。
「女子高生が大人の男性にあんなことや、こんなことしてお金を稼ぐビジネスですよ。その背景には暴力団や半グレが裏にいて、お金がほしい女子高生が安易に稼ごうと犯罪に巻き込まれるんです。すでに社会問題化しており、全国紙でも特集が組まれてます。我が新聞部でも取り上げるべきかと思います、部長。いかがでしょう?」
「うーん、話題が重いよ。もっとポップな話題がいいよ」
「ポップがいい? 何を言っているのですか、部長は!」
と、深田先輩の何かに触れたのか、ポニテを揺らしながら立ち上がって、遠藤部長に食い下がった。
「たとえ高校生の新聞部であっても、根底にあるのは社会問題を究明するジャーナリズムですよ。アメリカやフランスの高校生は地球や社会問題に積極的に取り込んでいるんですよ。校長先生がおっしゃる通り、日本の高校生も、もっと社会問題を取り上げるべきなんです! それがなんですか、『話題が重い』だの『もっとポップがいい』だの、スポーツ新聞のクソみたいなネット記事じゃないんですよ! 我が新聞部の記事は!」
「だって、みんなから言われるんだもん! もっと高校生らしいやつって! 堅苦しいのは読みたくないって!」
胸倉をつかまれ、涙目で遠藤部長は答えた。テルがスマホで動画撮影しているが、深田先輩には関係ないらしい。
「メグミのようなアホな子が、JKビジネスの果てに殺人事件に巻き込まれたらどうするんですか? ストーカー被害者が増えたらどうすんですか? 犯罪被害者を増やさないためのジャーナリズムでしょうが!」
「マナミ、落ち着いて落ち着いて! わたしはアホな子でも、遠藤部長が泣いているのぐらいわかるよ」
高橋先輩が興奮する深田先輩を止めた。「すみません部長、ついヒートアップしてしまいました」と、乱れた髪を整える。
「大丈夫。うん、大丈夫だから」
部長は野犬に嚙みつかれたよう、憔悴しきっている。
テルが俺に尋ねた。「ユーマは祭り行きたくないの?」
「行きたいけどさ、すっごいおカネかかるから却下じゃない?」
「えー、まじかぁ……あ!」
閃いたのか、モヒカンがビシッと立つ。
「ラーメン売りまくって稼げばいいんだよ! 部長がラーメンカーを運転して、ユーマが実家のラーメン作って売ればいいんだよ! そうすれば、資金問題も移動手段もクリアできるじゃん! 俺ってちょー天才!」
「今井テル、さすが私の後輩だね!」
高橋先輩とハイタッチだ。そこに部長が一言、「ごめん、免許持ってないから。まだ17歳だから、免許取れないから」
あっさりと天才のアイデアはボツになった。
俺は言う、「宇宙人特集でいいんじゃないですか? ついでにオカルト特集でもやれば面白いと思いますよ?」
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