第2話 疎遠

 中学に入って、何か変わるのかと期待したけれど、何も変わらなかった。ちょっと大きめな制服の着心地が悪いくらい。あかりの笑顔は変わらなかった。


 僕は小学校最後の方にあかりがハマっていた、バスケットボールの部活に入ることにした。彼女に教えられるよう、もっともっと上手くなりたい。その一心で打ち込んでいくうちに、結構自信もついた。


 けれど、中学は前みたいに気軽に遊びに誘えないし、誘われない。それも仕方ないかなって思ったけれど、時間が経つにつれてソワソワしてくる。


「あかり」


「うん、何?」


「今週末とかさ、体育館空いてるからバスケしない?」


「あーうん……いや、ごめん。ちょっと私、家の用事があるかも」


「そっか。じゃあまた」


「うん、またね」


 そうやって、何となく距離を感じ始めていた。一年生が終わる頃振り返ったら、あかりと遊んだのなんて数えるくらいで。



 二年になって、いよいよあかりと話せなくなっていた。近寄りがたいというか、避けられてる? でも、他の男子とか女子とは話せるようになっていた。バスケ部で少しずつ結果が出せてたから。


 こんなにフリースローうまくなったんだぜって、早く自慢したかった。小学校の頃高速ドリブルに憧れてたの、僕もできなかったからって悔しい思いをした。今ではきっと教えられるんだ。そう思って、ようやく捕まえた夏休み前。


 彼女は目も合わせず、どこか不貞腐れたみたいに。


「あかり? えっと、僕何か悪いことした?」


「……してないけど」


「じゃあ、バスケは」


「しない! 話しかけないで!」


 そう言って彼女は離れていった。その後僕は一人で体育館でフリースローをしたけれど、まるでゴールが決まらなかった。


 ゴールに弾かれたボールが足元に転がって、それを拾う。今まではすごく大切だったバスケも、何もかも意味のないものに思えてしまった。ただ、だからってどうすればいいかも分からなくて。


「……しょーくんって呼ばれたの、いつだっけ」


 はぁ、と短くため息を吐く。昔からよく分からないんだ、あかりのことは。急に僕の事が嫌いになったのか、男子とは遊ばないと決めたのか。だからもう、仕方ない。


 手に持ったボールが、まるでボウリングの球みたいに感じたけれど、それを力任せに適当に投げた。ボールは弧を描いて、偶然バスケゴールに収まると——何度か跳ねて、床に転がった。


 僕はそれを拾わず、ただ少しの間立ち尽くしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る