名無しの成長期
eLe(エル)
第1話 あかりとしょーくん
「あかりって呼ぶの辞めてよ」
中学二年の夏休み前に言われて、僕は一人置いてけぼりにされた気分だった。
*
僕とあかりは家が近くで、小学校からの幼なじみ。彼女は黒の細縁メガネがトレードマークの快活な少女だった。何の偶然か、小中とずっと同じクラスで一緒に過ごしていた。
「二重跳びってどうやるの!」
「逆上がり教えてよ!」
「私もそのゲームやりたい!」
同い年なのに、いつもくっついてくる妹みたいな感じだった。いろんなことに挑戦して、うまくいった時の笑顔が見られると僕まで嬉しかった。だから、あかりに色々教えるために自分からいろんなことを探して、いつ聞かれても教えられるように頑張った。
「しょーくんは他の子と遊ばないの?」
「え?」
「いつもあかりと遊んでくれるけど」
「あぁ、いや」
小三の時公園で遊んでいて、不意打ちでそんなことを聞かれて、困ってしまう。あかりは真っ直ぐな目で僕のことを見ていたから。
「……あかりと遊ぶのが楽しいから、別に」
「ふーん、そうなんだ?」
僕は何か言い訳をしたかったけれど、あかりはそれで満足そうだったから、納得することにした。どうしてか分からないけれど、心臓が逆さまになりそうだった。
*
小五の時も、同じようなことがあった。放課後にどうしてもPKがしたいって聞かないあかりがどこからかサッカーボールを持ってきて、二人で交互に蹴り合っていた。メガネが危ないから基本はキッカー役を任せてキーパーは僕。するとどこからか男子がやってきて、
「お前ら、仲良いじゃん。わざわざ放課後に二人きりでサッカーしてんの?」
「うわ、ラブラブカップルてかもはや夫婦じゃん! もしかして、付き合ってたりしてー」
これまでもたまに茶化されることがあって、出来るだけ無視していた。でもこの時は二人ともしつこくて、僕がどうというより、あかりが困ってしまわないか気になっていた。するとあかりはその男子の方を見て。
「二人とも、私とサッカーしたいの?」
「え? いや、そういうわけじゃねぇけど」
「いいじゃん、やろうよ。授業じゃ男子とサッカーできないもん。ね?」
「あ、いや……」
と、無理やり引き込んでしまった。ひたすらあかりが蹴って、男子三人で交互にゴールキーパー。次々に容赦無く蹴り込んでくるから、他の二人も段々本気になってきて。ずっとずっと彼女は笑っていた。あかりはそういう女子なんだ。男女なんて気にしないで、ただひたすら自分のやりたいことに真っ直ぐ。そう思っていたんだ。
「じゃあな、古庄」
「またやろうねー。それじゃ、帰ろっか、しょーくん」
「あ、う、うん」
彼女は気にしてないんだろう。僕だけがあかりって呼んでること。それを意識するのは間違っているんだって思って、また逆さまになりそうな心臓を元に戻すのに必死だった。
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