名無しの成長期

eLe(エル)

第1話 あかりとしょーくん


「あかりって呼ぶの辞めてよ」


中学二年の夏休み前に言われて、僕は一人置いてけぼりにされた気分だった。



 僕とあかりは家が近くで、小学校からの幼なじみ。彼女は黒の細縁メガネがトレードマークの快活な少女だった。何の偶然か、小中とずっと同じクラスで一緒に過ごしていた。


「二重跳びってどうやるの!」


「逆上がり教えてよ!」


「私もそのゲームやりたい!」


 同い年なのに、いつもくっついてくる妹みたいな感じだった。いろんなことに挑戦して、うまくいった時の笑顔が見られると僕まで嬉しかった。だから、あかりに色々教えるために自分からいろんなことを探して、いつ聞かれても教えられるように頑張った。


「しょーくんは他の子と遊ばないの?」


「え?」


「いつもあかりと遊んでくれるけど」


「あぁ、いや」


 小三の時公園で遊んでいて、不意打ちでそんなことを聞かれて、困ってしまう。あかりは真っ直ぐな目で僕のことを見ていたから。


「……あかりと遊ぶのが楽しいから、別に」


「ふーん、そうなんだ?」


 僕は何か言い訳をしたかったけれど、あかりはそれで満足そうだったから、納得することにした。どうしてか分からないけれど、心臓が逆さまになりそうだった。



 小五の時も、同じようなことがあった。放課後にどうしてもPKがしたいって聞かないあかりがどこからかサッカーボールを持ってきて、二人で交互に蹴り合っていた。メガネが危ないから基本はキッカー役を任せてキーパーは僕。するとどこからか男子がやってきて、


「お前ら、仲良いじゃん。わざわざ放課後に二人きりでサッカーしてんの?」


「うわ、ラブラブカップルてかもはや夫婦じゃん! もしかして、付き合ってたりしてー」


 これまでもたまに茶化されることがあって、出来るだけ無視していた。でもこの時は二人ともしつこくて、僕がどうというより、あかりが困ってしまわないか気になっていた。するとあかりはその男子の方を見て。


「二人とも、私とサッカーしたいの?」


「え? いや、そういうわけじゃねぇけど」


「いいじゃん、やろうよ。授業じゃ男子とサッカーできないもん。ね?」


「あ、いや……」


 と、無理やり引き込んでしまった。ひたすらあかりが蹴って、男子三人で交互にゴールキーパー。次々に容赦無く蹴り込んでくるから、他の二人も段々本気になってきて。ずっとずっと彼女は笑っていた。あかりはそういう女子なんだ。男女なんて気にしないで、ただひたすら自分のやりたいことに真っ直ぐ。そう思っていたんだ。


「じゃあな、古庄」


「またやろうねー。それじゃ、帰ろっか、しょーくん」


「あ、う、うん」


 彼女は気にしてないんだろう。僕だけがあかりって呼んでること。それを意識するのは間違っているんだって思って、また逆さまになりそうな心臓を元に戻すのに必死だった。

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